★★★★☆
内容
作家の男が女性記者とホテルで一夜を過ごす様子を描いた表題作のほか、全4編の短編集。
感想
各ページに文字がまばらに並ぶ作品や、二段組と一段組が混じった構成の作品など、実験的な作品が並ぶ。内容も難解なものから読みやすいものまで多様だ。
そんな中で印象に残ったのは表題作の「高瀬川」だ。若い男女がラブホテルで一夜を過ごす様子が詳細に描写される。ほぼ官能小説みたいなものだが、時おりお互いの思惑が食い違ったり思わぬアクシデントで、アンガールズのジャンガジャンガのような瞬間が訪れるのが面白い。お互いに顔を見合わせて「え?」と見つめ合ってしまうような瞬間だ。
その場の雰囲気に相応しくないことが起きて、ふと我に返ってしまうことはよくある。ちなみにこの短編を読んでいる時も、ふと我に返り、自分は真面目な顔をして何を読んでいるのだ?と苦笑してしまう時があった。
人生にはシリアスやコミカルなど、様々なテイストの調子が常に同時に流れている。普段はそのどれかを意識的にピックしているが、無意識に別の調子を拾ってしまうこともある。また、そのどれかだけを意識的にピックしていくことによって、人生を悲劇にも喜劇にもすることができる。人生なんて捉え方次第だ。
そしてことが終わった後に一転して文学的になるのも良かった。そしてそれは滑稽でもあり、哀しみを感じさせるものでもあった。いい余韻に浸れる読後感だった。
著者
平野啓一郎