★★★☆☆
あらすじ
通勤中にスマホと財布をすられてしまった美術館のキュレーターを務める男は、スマホの位置情報で突き止めた住所を元に犯人を脅そうとする。
スウェーデン映画。カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。151分。
感想
美術館のキュレーターを務める主人公が、すられたスマホを取り戻そうとしたことから始まる悲喜劇だ。それと同時に現代美術を皮肉ってもいる。劇中で出てくる、四角く囲った枠の中では信頼と思いやりのある行動を取らなければならない、というアート作品のテーマともかけていて、うまい構成だ。
主人公は思いやりのある人間でありたいと思っているが、つい自己中心的な行動をとってしまう男だ。どこにでもいる普通の人間だと言えるだろう。良いことがあれば自然と人に優しくなるし、心に余裕がなくなれば冷たくなってしまう。思いやりの聖域内にいつも留まっているのではなく、出たり入ったりしながらその周辺をグルグルと回っている。中央が四角い螺旋階段を上り下りするシーンが印象に残ったが、この映画では思いやりの聖域である四角形を示すモチーフが何度か出てくる。
美術館の彫刻が搬出作業中に破損してしまったり、展示物を清掃員が掃除してしまったりと、アート作品に対するちょっとした笑いもいくつか散りばめられている。アートとは何なのだろうと考えさせられてしまうが、中でもパーティで男が猿を演じるアートパフォーマンスのシーンはかなり強烈だった。
最初は皆半笑いで見ているのだが、次第に凶悪化する男を目の当たりにして水を打ったように静まり返り、巻きこまれないようじっと顔を伏せ嵐が過ぎ去るのを待つようになる。この映画のテーマである「思いやり」がもしなかったらこんな世界になってしまうと言っているようにも、皆が見て見ぬふりをしている現代社会を表現しているとも感じられるようなパフォーマンスだ。
長時間の上映時間も気にならないくらい面白いシーンはいくつもあったのだが、それ自体もやや分かりづらく、全体としてのつながりもぼんやりとしていて、どこかはっきりしない印象を受けてしまう映画だった。
映画の内容とはあまり関係ないが、主人公の同僚たちが職場に普通に赤ん坊や子供を連れてきたり、ペットの犬と一緒に仕事をしていたりして、スウェーデンで働くのはとても楽しそうだった。羨ましい。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 リューベン・オストルンド
出演 クレス・バング/エリザベス・モス/ドミニク・ウェスト/テリー・ノタリー