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「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」 2019

つけびの村  噂が5人を殺したのか?

★★★☆☆

 

内容

 2013年に山口県の過疎地で起きた連続殺人放火事件を取材したルポ。

山口連続殺人放火事件 - Wikipedia

 

感想

 事件発生当時は、Uターンしてきた犯人に住民達が嫌がらせをしていたなどと噂され、平成の津山事件・八つ墓村とも囁かれた事件。犯人による「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という貼り紙も話題になった。ただ実際のところ、具体的な嫌がらせの行動というのはほぼなかったようである。犯人ですらそのような事を供述しておらず、あの頃盛んに飛び回っていた噂は何だったのだ?という気になる。あの貼り紙も当時の皆が想像していたものとは違った。

津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)
 

 

 ただ「嫌がらせ」というのは、よく考えるとどんなものなのかが分からなくなる。こうしてください、これはやめてください、というのは単なるお願いや注意かもしれないが、捉え方によっては嫌がらせに感じることもあるはずだ。犯人は被害妄想気味だった。とはいえ、犯人が被害者の一人に刺されているのは事実で、それがまるで大したことがないように流されているのはちょっと怖い。

  

そしてワタル自身も、まず信頼関係を築く前に、近代的な家の設備で村人たちを呼び寄せようとしたことが裏目に出た。「Uターンハイ」とでも形容できるような状態になっていたのだろう。

p57 

 

 両親の介護のために東京からUターン移住した犯人。想像できるだけに「Uターンハイ」という言葉は心に痛い。本人は新しい生活を始めるという事で気分一新で張り切っているのだが、いつもの生活を続けているだけの村人たちにとってはただ鬱陶しいだけだ。町おこしや村おこしの難しさはここにある。住民の中にある温度差が、軋轢を生む。

 

 そして、ゼロからのスタートのつもりで始めた犯人の新生活だが、実はマイナスからのスタートだったというのもつらい。彼には両親の悪い噂が付きまとっていた。これを本人が元々承知していたのかは気になる。彼の幼少期はそれなりの人口の村だったという事なので、もしかしたら犯人の耳には入っていなかったのか。

 

 

 著者が取材を続けるにつれ、次第に明らかになる村の様子。犯人が戻ってくる前から放火があったり、飼ってる犬や猫が死んだりするという不穏な出来事が起きていた。それらの犯人もどうやら皆には目星がついているようだ。段々と空恐ろしくなってくる。そしてそんな話や今回の殺人放火事件について、あっけらからんと話す村人たちの様子がまた怖い。村のヤバさが浮き彫りになってくる。

 

 ただこれは、そんな日常を過ごさなければいけない村人たちのある種の知恵なのかもしれない。不安に怯えて閉じこもっているわけにはいかない以上は、笑い飛ばしてカラ元気で行くしかないということなのか。大したことではないと自分に言い聞かせて。

 

 そんな小さな村で威力を放っていたのは村人たちの噂話。どこにでもあるものだが、20人にも満たない村ではその一つ一つが大きな影響力を持つ。場を盛り上げたいだとか、承認欲求だとかできっと話に尾ひれがついていったはず。ほとんどが高齢者という事で、寂しさを紛らわすという事もあったのかもしれない。何度も通って気心が知れてきたのだろうが、よそ者である著者に対しても村の事を色々とペラペラと喋っているのが印象的だ。もしかしたら著者に取材で答えた内容にも、尾ひれがついてしまっているかもしれない。

 

 噂話は、生協の配達で村人のひとりの家に皆が集まるようになってからブーストしたという話は興味深い。人が集まると何かが起きる。独裁政権が人が集まるのを嫌うのが良く分かる。その噂話をもとに、誰かを注意することもあったという。

 

 意気込んでいた村の生活が上手くいかず、自分に関わる悪い噂もあるようだと感じていた被害妄想気味の、失意の底にあった犯人にとって、あちこちで村人が集まり話をする様子は自分の悪口を言っているように見えてしまったのかもしれない。何人かの被害者の遺体には、口の中に棒を突っ込まれたような跡があったというが、まるで「噂話をするな、黙れ」と言っているようでもある。

 

 読み進めると、事件当時のニュースで抱いた印象とはまた違った事件の姿が浮かび上がってくる。特に前半部分は興味深く読んだが、書籍化が決まってから書き足したという後半部分はいまいちだった。手紙のやり取りをしていた犯人からはまともな話を聞けなさそうだし、さらに事実だとしても被害者を含め村人たちの悪いことを書くのは支障があるしと色々と手詰まりだったのかもしれない。事件とは別に、裁判の問題点やノンフィクション作家の厳しい状況は良く伝わってきたが。

 

著者

高橋ユキ 

 

 

 

登場する作品

忘れられた日本人 (岩波文庫)

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 (ちくま学芸文庫)

よばいのあったころ(証言・周防の性風俗)

U‐miz

魔女の宅急便 [DVD]

津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)

およげ!たいやきくん

防長風土注進案 (1983年)

「山口縣風土誌(五)」

鹿野町誌 (1970年)

「須金村史」

「金峰百年の歩み」

U.S.A.(CD)

戦場中毒 撮りに行かずにいられない

 

 

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