BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「かくて行動経済学は生まれり」 2017

かくて行動経済学は生まれり

★★★★☆

 

内容

 行動経済学者を生み出した二人の心理学者、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの足跡を追う。「マネー・ボール」の著者による本。

 

感想

 まず最初に興味をひかれるのは、彼らの出自であるユダヤ人、イスラエル人という人たちだ。特にダニエル・カーネマンは第二次大戦中のナチスドイツによるユダヤ人狩りを生き延びてイスラエルにやって来ている。そこで人々の顔色を窺いながら暮らし、きっと一貫性のない人間の不思議に気づいていたのだろう。彼らが心理学に興味をもつのも分かるような気がする。

 

 一般的にイスラエルは、中東の緊張の中で爆撃などで多くの人が死んでいる、安全ではない場所だという認識だが、ダニエル・カーネマンはユダヤ人とアラブ人が殺し合いをする中で暮らしながらも、それが危険とは感じなかったという。

 

「それまでとはまったく違っていた。戦っていたからだ。だから前よりよかった。わたしはヨーロッパにおけるユダヤ人という立場を憎んでいた。狩りにあうのはいやだった。ウサギではいたくなかった」

p64

 

 この状況で全然ましだと思える暮らしを彼らは強いられていたということで、もうその発想が普通じゃない。勿論彼らに非があるわけではないが。

 

 そしてイスラエルという新国家のためにという高い志を皆が持っていて、若者たちのモチベーションが高いのも感じられる。明治時代初期の日本もこんな感じだったのだろう。自分がなにかやれば、それの第一人者になれる。

 

 

 そしてアラブ諸国との戦いが始まれば、彼らは当然のように戦いに参加する。学者としてそれなりの名声を得ていて外国にいたとしても、戦いに参加するために撃ち落とされるリスクを無視して飛行機に乗り込み、祖国に戻る。正直、このあたりは理解できないのだが、諸国をさまよい迫害にあうくらいなら、死んでも居場所を確保するということなのだろうか。戦うことを恐れない人ばかりだと、確かに中東の平和は難しいのだろうな、と実感する。

 

 中盤は行動経済学の基礎の理論が出来ていく過程を描いている。二人の誤解されそうなまでの異常な親密さに不思議さを感じるが、性質は違うが高いレベルの人間が同じことに関心を持ち、情熱を傾けるとそういうことが起きるのかもしれない。

 

 そして後半はそんな二人の関係が終わっていく過程を描いている。あれほど親密だったのに、環境が変わり、世間が共同研究者の片方を持ち上げることで関係に亀裂が生じ、相手への不信が高じていく。このあたりがかなり赤裸々に生々しく描かれている。それでもまったく口も聞かず、交際を断ってしまったというわけではなく、手紙などで互いの不満を述べ合ったりと、かろうじて親交を保っていたことに少しホッとした。

 

 今ではこの二人のうちでは、ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンの方が有名だと思うが、それまではエイモス・トヴェルスキーの方が著名だったという事が意外だった。このあたりはコンビやグループよりも、分かりやすい一人のスターを求めてしまう世間に問題がある。ただこうやって時が経つと人の認識が変わっていくというのも不思議な感じがする。このあたりは行動経済学でどう説明されるのだろうか。

 

著者

マイケル・ルイス

 

かくて行動経済学は生まれり

かくて行動経済学は生まれり

 

 

 

登場する作品

マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

The New Bill James Historical Baseball Abstract (English Edition)

八十日間世界一周 (創元SF文庫)

Take Me Out To The Ball Game

Clinical Versus Statistical Prediction: A Theoretical Analysis and a Review of the Evidence

A Portrait of the Israeli Soldier (Contributions in Women's Studies)

ブロディ先生の青春

ジュリアス・シーザー (新潮文庫)

かくれた説得者 (1958年)

Foundations of Measurement Volume I: Additive and Polynomial Representations

プライスレス 必ず得する行動経済学の法則

「Why I do not attend case conferences」 Paul E. Meehl

「Mathematical psychology;: An elementary introduction」

bookcites.hatenadiary.com

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com