★★★★☆
あらすじ
美人画で知られる浮世絵師・喜多川歌麿の周囲にいた女たちの生きざまを描く。
感想
喜多川歌麿の最初の登場シーンがかっこいい。絵をけなして怒らせてしまい、怒鳴り込んで来た狩野派の絵師に対して、動じることなく目の前で絵を描いてみせて黙らせてしまう。彼の確固たる自信が窺え、また権力には屈しない気概も感じられた。
そんな歌麿の周辺にいた女たちの姿が描かれる。彼女たちは歌麿と色恋の関係があったわけではなく、絵のモデルなどで関わった女たちだ。男と駆け落ちする者、取られた男を取り返そうとする者、好きな男を追って家を飛び出した者など、女たちは皆恋に奔放だ。現状に甘んじ、じっと耐えるだけの封建的な女たちではない。自分の意思で自由に生きようとするたくましさが感じられる。このあたりは戦後すぐに作られた映画だということが影響しているのかもしれない。
そして力強い女たちとは対照的に、男たちはだらしがない。意志が弱くて言い寄ってくる女の言うがままにフラフラしてしまう男や、固い決意で歌麿に弟子入りしたはずなのに女に溺れ、やがては女と消えてしまう男など、ダメ男が目立つ。最初は威厳を感じた歌麿も、その後は世間に迎合するような態度が見え隠れしてどこか頼りない。
女たちの自由な生き方がぶつかり合って修羅場となってしまうラストには悲壮感が漂っていたが、それでも田中絹代演じる女の表情には、やりたいようにやったのだから悔いはない、とでも言うようなさっぱりとした清々しさが浮かんでいた。そんな女たちの凛とした強さに触発されて、歌麿は再び筆をとる。
ところでタイトルとは裏腹に主要な女性の登場人物が4人しか見当たらず、5人目は誰なのだ?と気になってしまった。一応、歌麿の弟子と結婚することになった芸者の女(白妙公子)がそうらしいのだが、彼女はそんなに目立たなかった。宣材写真の5人の中にもいないので釈然としない。ちなみにこの写真の5人目の女優は誰なのだろうか?花柳小菊?
今だとなんてことはないのだが、当時だとおそらく女性の肌の露出が多く、ほんのりと可笑しみのあるシーンも多いので、かなりエンタメ感のある映画だったのだろう。溝口映画と聞くと身構えてしまうが、小難しかったら誰も見ないわけで、興行としてまずは娯楽が意識されていることがよく分かる。
スタッフ/キャスト
監督 溝口健二
脚本 依田義賢
出演 六代目 坂東簑助/田中絹代/坂東好太郎/川崎弘子/飯塚敏子/高松錦之助/大原英子/川崎弘子/白妙公子
歌麿をめぐる五人の女 (1946年の映画) - Wikipedia
登場する人物
喜多川歌麿/蔦屋重三郎/山東京伝/十返捨一九/難波屋おきた