★★★☆☆
あらすじ
長年営業してきたバーを閉める最終日、パーティーの準備をしていたマスターの男は、逃げ込んで来た外国人女性を匿う。
感想
警察とヤクザに追われる外国人女性をひょんなことから匿うことになった主人公。同時に事件を追う刑事の様子も描かれるのだが、その捜査の緊迫感とは対照的に、女性を匿う閉店パーティー中のバーの中は酒場特有のどこか間延びしたような弛緩した空気が流れていて、その落差が面白かった。
パーティー中の会話で分かって来るのは、マスターをはじめ何人かの常連客は全共闘で戦った仲間たちだという事だ。あれから長い時間を経て、かつての活動に対する彼らの認識はそれぞれ違ってきている。武勇伝とする者、終わった事と捉える者、まだ終わってないと形を変えて戦っている者と様々だ。これは何にだって言えることで、太平洋戦争だって時が経てば憎む者、賛美する者が現れている。これがどちらかに偏り過ぎると歴史修正が行われてしまうのかもしれない。
主人公は、どこか後悔を残したまま消化不良のまま生きてきた。それを今回の女性の事件にぶつけ、彼の中でそれを清算しているかのようだった。しかし室田日出男に麿赤児、蟹江敬三に佐野史郎と、主人公と対峙するヤクザや警察を演じる役者陣が皆アクが強くて良かった。舞台となる新宿のいかがわしさを表しているかのようだ。それから常連客役の一人、石橋蓮司も定期的に騒いだ後にあっさりと退場してしまい、何だったのだと思ってしまったが面白かった。
クライマックスは思ったよりもあっさりとしていたが、主人公が戦っていたのはヤクザではなく、そんな彼らを生み出した社会だからなのだろう。全共闘世代の総括みたいな映画だと言えるかもしれない。その後、ばらばらになった仲間たちもいざとなれば当時の心意気を見せていて熱かった。原作からそうなのかもしれないが、新宿のヤクザの抗争に巻き込まれた男の話を、こういう形で描くところに若松監督らしさを感じる。
そしてエンディングの主人公とヒロインのやり取りはカッコ良かったが、これは演じるのが原田芳雄と桃井かおりだから成立したと言ってもいい。原田芳雄の序盤のオーバーオール姿はダサすぎると思っていたが、これは終盤に着替えて彼の中でスイッチが入ったことを示すための敢えての演出だったのだなとエンディングを見ていて気付いた。
スタッフ/キャスト
監督/製作 若松孝二
原作 新宿のありふれた夜 (角川文庫)(「真夜中の遠い彼方」改題)
出演
桃井かおり/ルー・シュウリン/山口美也子/斉藤洋介/西岡徳馬/小倉一郎/麿赤児/佐野史郎/小水一男/山谷初男/室田日出男/石橋蓮司/蟹江敬三
音楽 梅津和時