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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「17歳の風景 少年は何を見たのか」 2005

17歳の風景 [DVD]

★★★☆☆

 

あらすじ

 母親を殺し、自転車を北へ走らせる17歳の少年。2000年に起きた「岡山金属バット母親殺害事件」をモチーフとした映画。

岡山金属バット母親殺害事件 - Wikipedia

 

感想

 殺人事件を描くのではなく、その後の、少年が自転車で北に向かう様子が描かれる。たまに他の人物たちが登場する事はあるがほとんど言葉を交わすこともなく、ただただ少年が自転車を走らせる姿が延々と映し出されるロードムービーだ。タイトル通り、事件後に少年が見ただろう風景を捉え、彼がそこで何を考え、何を思っていたのか、観客に想像させようとしているような映画といえる。

 

 少年を演じるのは柄本佑。ほとんどセリフもなく、表情も変えず、ただ自転車を漕いでいるだけなのだが、いかにも思い詰めて何かやらかしそうな顔をしているので、詳細に事件の事は描かれていないのに妙に説得力がある。いい顔だ。黙々としている彼の代わりに、時おり流れるインパクトのある友川かずきの歌が、彼の心を表現しているかのようだった。

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 途中で数少ない登場人物の一人、針生一郎演じる老人が少年に語り掛けるシーンがある。これがいかにもな老人の語り口で印象的だった。どんどんと話が逸れていき、まるで一人語りのようでいっこうに終わる気配がない。

 

 針生一郎は評論家で、役者ではないので演技ではなくアドリブで喋っているだけなのだと思うが、語っているうちに次々と思い出して、次々と語りたいことが溢れてくる感じ。それでも普通なら収拾がつかなくなって、何が言いたかったのか分からないグダグダで終わってしまうところを、最終的にはちゃんと本題に戻ってきてしっかりと話をまとめて終わらせたのはさすがだった。ただものじゃない。 

機関〈17号〉針生一郎特集 (美術をめぐる思想と評論)

機関〈17号〉針生一郎特集 (美術をめぐる思想と評論)

  • 発売日: 2001/06/01
  • メディア: 単行本
 

 

  モチーフとなった実際の事件の少年は、岡山から秋田まで行ってそこで捕まったとの事だが、この映画ではほとんど日本海側の雪国を自転車で走る様子が映し出される。雪が降り積もるような場所で自転車なんかが走れるのか?と変な心配をしてしまったが、道路はきちんと除雪されていてちゃんと走りやすいようになっていた。

 

 きっと北国では、雪が降ることは織りこみ済みで、それに対処する方法もちゃんと整備されているという事か。逆に滅多に雪が降らない地域だと、降雪時に道路の除雪がされず、道端にノーマルタイヤでスリップして動けなくなった車があちこちで停まっている、みたいな光景が広がりがちだ。ただ、映画では除雪されていない山道も登場し、北国と言えども自転車で走るにはきつい道があることも分かる。北国の道路事情を知るにもいい映画だ。

 

 

 ほとんど誰とも言葉を交わすこともなく、ひたすら自転車を漕ぐ少年。雄大な自然の中でも景色を楽しむ素振りはなく、ただ前だけをじっと見つめて自転車を走らせる。きっと、北海道へ向かうという困難な目標を定め、それに集中することで、自分のやらかした事にまともに向き合わないですむよう現実逃避をしているのだろう。ふとした瞬間に事件のことを思い出してしまっても、無心で自転車を漕ぐことで忘れることができる。

 

 しかしそれもゴールが見えた時、たどり着くのが困難だと思えたゴールが見えてしまった時に効力を失ってしまう。それ以上の目標を新たに定めることができず、現実に立ち戻るしかなくなってしまった。少年にとってこの自転車旅は、ある意味で彼自身が設けた心を整理するためのモラトリアム(執行猶予)期間だったと言えるのかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督 若松孝二

 

出演 柄本佑/不破万作/田中要次/針生一郎/関えつ子 

 

音楽 友川かずき

 

17歳の風景 [DVD]

17歳の風景 [DVD]

  • 発売日: 2007/10/26
  • メディア: DVD
 

  

 

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