★★★★☆
感想
「ファスト&スロー」で取り上げられていて、面白そうだったので手にとって見た。
本の中では、具体的なチェックリストの作成の方法を紹介するというよりも、医者でもある著者がチェックリストの有用性に気づき、調査して実際に作成し、導入したという経験が書かれている。
チェックリストをうまく運用するためにまず大事なのは、良いチェックリストを作ることだ。マニュアルではなくチェックリストなので、事細かに記述してしまってはいけない。チェックの項目が多すぎると使ってもらえないし、時間を取りすぎてしまう。肝心な部分だけをピックアップして、シンプルなものにしなければいけない。
そして良いチェックリストを作れたとしても、それを実際に使ってもらうという事が最大の問題となってくる。それまでリスト無しでそれなりにやってきた人達は、素直にそれを受け入れないだろう。現に手術用のチェックリストを作った著者本人ですら、自分には必要ないと思っていた。
これは何なのだろう。本の中では、投資に成功している人がチェックリストを使っているとその秘密を明かしても、誰も真似をしようとはしなかった、というエピソードがあるが、大金を手に入れられるとしても使おうとしないなんて、かなり闇が深い。
私たちは、チェックリストを使うのは恥ずかしいことだと心の奥底で思っているのだ。本当に優秀な人はマニュアルやチェックリストなんて使わない。複雑で危険な状況も度胸と工夫で乗り切ってしまう、と思いこんでいるのだ。
p198
きっとこういうことなのだろう。理解できなくはない。チェックリストを使え、なんて言われたらバカにされたと思ってしまう。映画やドラマでも、医者や弁護士や刑事は度胸と工夫で危機を乗り越えるヒーローとして描かれがちでもある。プライドは厄介だ。他人には簡単にチェックリストを使え、とは言えるが、自分は使わなくても大丈夫、と思ってしまう。
なかなか現場に受け入れられないチェックリストだが、実際に使い始めるとミスが大幅に減るなど、かなりの有用性が認められている。その中でも、チェックリストを使うことで、チームの結束力が高まるというのは面白い。皆でチェックを行うということで、各自に当事者としての責任感が芽生えて、困難な状況になっても一致団結して対処しようとするらしい。そのためにもチェックリストに、コミュニケーションを促進するような項目を加えたほうが良いようだ。
メンバー一人ひとりの能力を底上げする手間暇を加えなくても、チェックリストの導入だけで簡単にミスを減らすことができるということは、コスト的にも魅力的だ。
航空業界ではチェックリストが浸透していると言うが、これは導入して長い時間が経っているからだろう。訓練の時からチェックリストが使用されていれば、それが普通と思って抵抗を感じない。ある程度の経験がある人が、突然チェックリストを使えと言われても受け入れ難いだろう。だから、その過渡期を乗り越えることが定着への第一歩なのかもしれない。
著者
アトゥール・ガワンデ
アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】
- 作者: アトゥールガワンデ,吉田竜
- 出版社/メーカー: 晋遊舎
- 発売日: 2011/06/18
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