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「あばよダチ公」 1974

あばよダチ公

★★★☆☆

 

あらすじ

 刑務所帰りの若い男は、仲間と共にダム建設予定地に乗り込み、立ち退き料をせしめようと画策する。

 

感想

 刑務所帰りの主人公が、仲間と共に無軌道な日々を過ごす様子が描かれる。若いから金がないのは仕方がないが、将来に対する夢や希望まで無ければこうなってしまうのも無理はないことなのかもしれない。とにかく今さえよければ良いと自暴自棄に暮らしている。

 

 そんな日々の中で、主人公たちはキャバレーでボッタクリに遭うのだが、この一連のシーンは面白かった。納得できないと暴れ、警察が介入して穏便に済ませようとしているのになぜかそれにも異議を唱え、一向に事態を収拾させようとしない。

 

 

 この果てしないやり取りには時空が歪んでいくような感覚があり、段々と何をやろうとしていたのか、訳が分からなくなってくる。しまいには相手が勘弁してくれとさじを投げてしまうほどで、スティーブ・ジョブスの現実歪曲フィールか!とツッコミを入れたくなった。そんな空間を作り出せてしまう主演の松田優作にも凄みを感じた。

「たるんだ職場」の変え方は、ジョブズの「現実歪曲フィールド」が教えてくれる | チームが自然に生まれ変わる | ダイヤモンド・オンライン

 

 やがて主人公らは、仲間の一人の親戚からダム建設による立ち退きの話を聞き、その補償金をいただくことを思いつく。まず当事者となるためにその親戚の若い女と結婚することにするのだが、その後二人が熱心に夜の新婚生活に取り組んでいるのが可笑しかった。そもそも仲間の中でなぜ主人公が女と結婚することになったのかもよく分からないのだが、そこは偽装結婚的に形だけで全然構わなかったはずだ。

 

 おかげで主人公の仲間らは、二人のそばで悶々とすることになってしまう。そんな彼らの苦悩する姿が中心となり、抵抗運動や相手と交渉する様子などはほとんど描かれない。闘いの物語ではなく、鄙びた山村でひと夏を過ごす若者たちの青春物語となっている。

 

 だが彼らのそんな日々も、金と権力を持った汚い大人たちの策略によって終わりの時を迎える。一度は素直に屈してしまった彼らが、思い直して一矢報いようと立ち上がるクライマックスは胸が熱くなった。金も権力もない若者にもやれることはある。

 

 とはいえ最後は結局無残に散るしかないのかと思わせておいて、ハッピーエンドで終わるラストも良かった。束の間の安堵を得たに過ぎないのかもしれないが、それでも心が少し軽くなった。

 

スタッフ/キャスト

監督 澤田幸弘

 

出演 松田優作/加藤小夜子/佐藤蛾次郎/河原崎建三/大門正明/郷鍈治/初井言榮/悠木千帆(樹木希林)/山西道広

 

音楽 コスモスファクトリー

 

あばよダチ公

あばよダチ公 - Wikipedia

 

 

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