★★★☆☆
あらすじ
避暑地を訪れた高名な老作家が、美しい少年に惹きつけられる。別邦題に「ヴェニスに死す」「ベニスに死す」など。
感想
名前は知っていたがトーマス・マンを初めて読んだ。村上春樹の「ノルウェイの森」に彼の著作「魔の山」が出てくる。もっと古い時代の作家かと思っていたが、没年が1955年と知って驚いた。
回りくどい文章でなかなか読むのに骨が折れた。回りくどいというよりも、詩的な表現が散りばめられているというべきか。内容がなかなか頭に入ってこず、状況を理解するのに手間取ってしまった。
享楽的な生活に溺れることなく、実直に勤勉に仕事に取り組むことで名声を得ることができた老作家。そんな彼が発作的に旅に出たくなったのはなぜなのか。当たり前のように受け入れていた、老いていく自分に突然違和感を覚えたのかもしれない。どこかでそういったものに抗いたい衝動に襲われたのだろう。
そんな旅への衝動に突き動かされた時点で、もう既に彼の運命は決まっていたといえるのかもしれない。美少年ではなくとも、また別の美しいものに出会うまで旅を続けていたし、その美しさに制御が効かないくらいのめり込んでいたような気がする。少年にのめり込んでいく過程で、著者の芸術や美しいものに対する考え方も垣間見ることが出来る。
なぜなら、人が人を愛し敬うのは、相手を評価できないでいる間だけなのだから。憧れは認識不足の産物である。
p98
あの結末も傍から見れば我を失い破滅してしまった老作家でしかないのかもしれないが、本人としてはむしろそうなることを望んでいた結末のように思えた。
著者
トーマス・マン
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