★★★★☆
あらすじ
恋人を失った悲しみから立ち直れない男。
感想
恋人を失った悲しみに打ちひしがれ、仕事にも行かないでデパートの屋上で時間を潰す日々を繰り返す主人公。 そこで頭をよぎっているのは恋人との思い出だけでなく、これまでの人生の様々な出来事だというのが面白い。だが過去を振り返るモードになると、一つの事だけではなく、次から次ととめどなく、色々な事を思い出してしまうものだ。主人公はそれらの思い出から人生を見つめ直していく。
僕は死んでいく葉子ではなくて、生きている葉子と今ここにいるのである。
p269
前半は現在の失意の日々とそんな過去の思い出を振り返り、後半は恋人との最後の日々が描かれていく。これから死んでいく人間と一緒にいる事を想像すると、どういう気持ちで過ごせばいいのかよく分からなくて戸惑ってしまうが、上記の言葉は、難しく考えなくていいのだなと気分を少し楽にさせてくれる。
よく考えてみれば、自分を含めて誰もが死んでいっているわけで、それが1か月後なのか、50年後なのか、早いか遅いかの違いでしかない。だからそれをことさら意識する必要はないのかもしれない。
恋人の闘病生活の描写は、延々と続くわけではなく、割とあっさり目に描かれている。だが淡々とした二人の様子を読んでいたら、突然無性に悲しくなったりした。ほとんど苦しむことなく眠るように恋人が最期を迎えたのには、少しきれいすぎる気がしてしまったが。
バラバラになっていた過去の思い出を振り返って整理して、妻との日々に再度向き合った主人公。枯れてしまうかのように萎びてしまった草木が再びみずみずしく活力を取り戻すように、生きる力が漲ってくる主人公の姿に清々しさを覚えた。こういうものは、ある時突然やってくるものだ。いつまでも無いものを探し続けるわけにはいかない。
著者
大崎善生
登場する作品
「エヴリ・ブレス・ユー・テイク(エブリィ・ブレス・ユー・テイク)」
「Whole Lotta Love (Remaster)(ホール・ロッタ・ラヴ)」
「クリムゾン・キングの宮殿 (ファイナル・ヴァージョン)(紙ジャケット仕様)」所収 「コンフュージョン・ウィル・ビー・マイ・エピタフ」
ユア・ソング(僕の歌は君の歌) (Remastered 2016)
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映画化作品