★★★★☆
あらすじ
南北戦争時代のプランテーションで奴隷として働かされている黒人女性は、いつか逃亡することを密かに決意していた。
感想
序盤は、アメリカ南部のプランテーションにおける主人公をはじめとする奴隷たちの日常が描かれる。農園主らによる理不尽な扱いが延々と映し出され、かなりの息苦しさがあった。事前に想像していたのとは違って、人種差別を描く物語の雰囲気が漂っている。
しかし、思ってたのと違うがそういう映画なのだなと心の整理が付き始めた頃、いきなり場面は現代に切り替わる。南北戦争時代にはあり得ないスマホのバイブ音をまず鳴り響かせてから現代に切り替わる演出は面白かった。そして今度は裕福で幸福そうな家庭の妻であり母でもある女として主人公は現れる。
成功していかにもハイクラスな生活をする主人公だが、それでもちょくちょくと差別的な扱いを受けている。高級なホテルやレストランといった金持ち相手に商売をしている人たちが、明らかに金を持ってそうな主人公に対して平気で差別することには驚いてしまうが、本人たちは無意識なのかもしれない。一旦定着してしまった差別や偏見はそう簡単にはなくならない。潜在的に根強く残り続け、当人すら気付かぬままに顔を出す。
ここで、時代は違えど主人公と彼女の祖先が本当の自由を追い求め、あきらめずに戦った姿をオーバーラップさせながら描く、ヒューマンなドラマだったのかと気持ちを切り替え、改めて見始めた。不吉な予感が漂っていた現代の主人公に危機的状況が訪れた瞬間、再び場面は南北戦争時代の過去に戻る。
現在と過去を行ったり来たりするつもりの割にはテンポが悪いなと思っていたのだが、ここからが驚きの展開だった。あり得ないような奇妙な出来事が続き、現在と過去が混濁したようなシュールな世界観となっていく。混乱しながらも、そんな中で脱走を決意した主人公が農園主らに復讐を果たすシーンはカタルシスがあった。奴隷がやられたことを全部やり返す。
そして脱走が成功したとき、物語の全容がついに明らかになる。現代と過去を行き来するとかではなく、もっとシンプルな話だった。妙に奴隷が反抗するなとか、そんな厳しいルールはさすがになかったのでは?とか、違和感のある描写が多く見られたのは、だからだったのかと合点がいった。すべてを理解した上でもう一度見直すと違った印象になりそうだ。
それから、酷いことは酷いがそういう時代だったのだから仕方がないとあきらめていた奴隷の扱いが、全貌が明らかになった後ではとんでもなく、許せないものに思えてくるから不思議だ。時代が変われば同じことでも見方が変わるということか。
楽しませつつも差別や偏見についても考えさせる面白いアイデアの映画だ。ただ、コスプレを楽しんでいた人達は真面目にやり過ぎではないかとか、どうやって日常と切り替えていたのかとか、見終わった後に色々と疑問が浮かんできてしまう映画でもある。それでもこの鮮烈さは忘れがたい。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ジェラルド・ブッシュ/クリストファー・レンツ
出演 ジャネール・モネイ/エリック・ラング/ジェナ・マローン/ジャック・ヒューストン/キアシー・クレモンズ/ガボレイ・シディベ