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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「にあんちゃん」 1959

にあんちゃん

★★★★☆

 

あらすじ

 斜陽の炭鉱の町で大黒柱の父を亡くし、極貧生活を送ることになった4人兄妹。

 

感想

 炭鉱の町で子供4人だけで生きていかなければならくなった兄妹の物語だ。食い扶持が増えるだとか口減らしだとか、食べることをどうするかしか考えられない状況にいる。彼らが常に食べ物に困って腹を空かせ、ついには住むところまで失ってしまう過程を見るのは辛かった。

 

 これがもし景気の良い時であれば、仕事が簡単に見つかったり、助けてくれる人がたくさんいたりしてそんなに困ることはなかったのだろうが、誰もが我が身の心配をしている斜陽の時代に起きてしまったのは不運だったとしか言いようがない。時代に翻弄されて、自分ではどうすることも出来ないことがある。

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 だがそれでも心細そうな幼い兄妹たちにそっと手を差し伸べてくれる人がいることに、あたたかな気持ちになる。彼らとて貧しくて全然余裕はなく、他人を助ける余地などない筈なのに、無理になんとか余地を作ってそれを兄妹に分け与えているような印象だ。中には渋々の者もいたりするが、それでも皆が出来る範囲で助け合うコミュニティーの力がしっかりと働いているのだろう。鬼のような強欲婆さんですら、ふと優しい言葉をかけていた。

 

 また、貧しい炭鉱夫同士での助け合いだけでなく、別の立場である学校教師や保健婦もまた彼らを見守っている。特にのんびりして頼りなさげだった男性教師が、生徒である次女にお金がなくて買えなかった教科書を与えたり、姉と会うためのお金をそっと渡してやったりと、さりげなく助ける姿にはグッと来てしまった。皆の少しずつの善意が彼らを生かしている。

 

 

 すでに学校を卒業している長男と長女は、外に仕事を見つけてそれぞれ町を出ていく。彼らはすぐに幼い兄妹を迎えに来るのかと思ったのだが、まったくそんな気配はなかった。住み込みだと、誰かを一緒に住まわせるのは難しいのかもしれない。まだ自分自身が生きていくだけで精一杯だ。

 

 彼らに残された下の二人の兄妹は、預けられた家で嫌味を言われ、腹を空かせながらもなんとか生きている。ちなみに「にあんちゃん」とは、二番目のあんちゃんということのようだ。この少年とその妹が物語の中心となっている。

 

 まだ小学生の二人は、働くには幼すぎて出来ることが限られている。それでも何とか状況を打破しようと頑張る少年の姿は頼もしかった。そしてこんな町にいては駄目だと彼が取った思い切った行動には驚かされた。だがどんなに頑張っても、まだ子供であることが結局はネックになってしまう。彼が早く大人になりたいと願う気持ちが痛いほどよく分かったが、そんな願いに至らせてしまう境遇には哀しみしかない。

 

 あまり状況が好転したとは言えないままラストを迎えるが、それでもこのたくましい兄妹ならきっと大丈夫だろうと思わせてくれる心強さがあった。幼い二人が手を取り合って坂を上っていくエンディングシーンが心に残る。希望を感じるシーンだった。

 

 そして当時大量に生まれただろう炭鉱の失業者たちは、その後、無事に生き延びることが出来たのだろうかと思いを馳せてしまう映画でもある。彼らは貧しい上に子供がいたから苦労したはずだ。

 

 貧しさを軽減するには食い扶持を減らすことが大事だから、今の少子化も貧しい庶民の合理的な判断の結果だと考えれば納得がいく。この映画も、父親が子どもを残していなければ存在しない物語だ。こんな思いをさせないために人々は子供を残さず、ひっそりと死んでいこうとしているのかもしれない。だとしたら理に適ってはいるが、そういう世の中だから仕方がないと考えるのもまた寂しい話ではある。

 

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 今村昌平

 

原作 にあんちゃん (角川文庫)

 

出演 長門裕之/吉行和子/二谷英明/沖村武/前田暁子/松尾嘉代/北林谷栄/芦田伸介/西村晃/小沢昭一/殿山泰司/山岡久乃/穂積隆信/浜村純/大滝秀治

 

撮影 姫田真佐久

 

音楽 黛敏郎

 

にあんちゃん

にあんちゃん - Wikipedia

 

 

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