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「学生野郎と娘たち」 1960

学生野郎と娘たち

★★★☆☆

 

あらすじ

 学生たちがそれぞれバイトや学生運動などをしながら通う私立大学に、世界的な学者が学長に就任し、改革を始めたことにより波紋が起きるようになる。

 

感想

 とある私立大学に通う学生たちの姿を描いた群像劇だ。最初は長門裕之演じる金策に明け暮れる学生を中心にした、陽気で朗らかな学園コメディの雰囲気が漂っている。だが注意深く目を凝らすと、そこには学生たちそれぞれのしんどい状況が見えてくる。その大きな要因となっているのは金銭的な問題だ。高い学費のために苦労している学生たちが多く、この時代も貧困が深刻な現代と大して変わらなかったのだなと意外だった。

 

 当時は大学へ行くことが特別なことではなくなりつつあった時代なのだろう。大学の数が増えて質が悪くなり、良い就職のためだけに進学し、まともに勉強せずに遊んでばかりいる生徒が増えたりと、当時の大学にまつわる様々な問題が浮き彫りにされている。

 

 個人的な問題をそれぞれ抱えながらも、学生たちは男女仲良く、和気あいあいとそれなりの青春を謳歌していたのだが、新学長による更なる学費の値上げの断行が、彼らのそんな雰囲気に暗い影を落とすようになる。

 

 

 日本の大学の現状を憂う学長としては、やる気のない者には去ってもらい、より質の高い教育を用意するための措置のつもりだったのかもしれないが、さすがにいきなりは無茶だ。金銭的に厳しい人たちもあらかじめ準備ができるように、対象は次期入学者からにするなど配慮した措置を取るべきだった。

 

 大学進学が特別でなくなったのだから、誰だって勉学に取り組めるような、時代に合わせた仕組みに切り替えていかなければならないだろう。志が高ければお腹も空かなければ家賃も払わないで済むのならいいが、勿論そんなわけはない。理想だけで現実を見ない学者がいるのも問題の一つであることを示している。

 

 学長による改革で完全に余裕がなくなってしまった者が増えたからか、学生たちの間にギスギスした雰囲気が漂い始める。仲間の金を盗む者、怪しいバイトに手を出す者なども出てきて、どんどんとシリアスな展開になっていく。序盤の楽観的で明るかった雰囲気が嘘みたいだ。想像できなかったような重くて暗い結末が待ち受けていた。

 

 終盤にはグッと反体制的な姿勢を前面に打ち出してきた感もある。ラストシーンで嫌気がさして大学を飛び出した一人の女学生が、空に向かって悪態をついた言葉は意味深だった。単なる八つ当たりの言葉だったのだろうが、色んな意味が込められているようにも思えてしまった。

 

 大学の欺瞞を炙り出すような、どんよりとした雰囲気は嫌いではなかったが、映画のトーンがちぐはぐで、うまく付いて行けないところがあった。

 

スタッフ/キャスト

監督 中平康

 

原作 キャンパス110番 (ROMANBOOKS)

 

出演 中原早苗/芦川いづみ/長門裕之/伊藤孝雄/岡田眞澄/仲谷昇/殿山泰司/南寿美子

 

音楽 黛敏郎

 

 

 

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