★★★☆☆
あらすじ
妹が児童虐待で逮捕された雑誌記者の男は、一年前に起きた一家惨殺事件の再取材を始める。
感想
冒頭のシーンの主人公からしてそうだが、登場する人物たちのナチュラルな悪意が映画のあちこちに散りばめられている。嫌な気分になるのは確かだがよく見る光景でもあり、あるあるネタ的な意味でそれが面白くもある。
未解決事件を取材する主人公が、関係者に話を聞いて回る中で次第に事件の真相が明らかになっていくサスペンス。事件前後の関係者の足取りを追うのではなく、過去に関わりのあった人たちで被害者に恨みを持っていそうな人物を探すうちに犯人が浮かび上がってくるという方式なので、事件のあらましを明らかにするというよりも、被害者たちがどんな人物だったのかを浮き彫りにすることに主眼が置かれている。
被害者の夫婦は、どちらも過去に他人を利用してでも自分の幸せを掴み取ろうとしていたという事が分かってくるのだが、そんな野心のある二人が結婚したというのが意外な気がする。どちらも金持ちでも家柄が良いわけでもない出自なのだから、権謀術数を用いてそういった恵まれた環境の異性を落として結婚しそうなものだが、これでは全然目的を果たせていない。彼らも結局、階級の壁に阻まれてしまったという事か。あんなに上昇志向が強かったのが嘘のように、幸せそうではあるが平凡な家庭に収まってしまったような印象を受ける。
事件の真相が明らかになるにつれ、意外なつながりも出てきて何度も驚かされる展開。更にはサスペンス以上の何かを目指していたことも窺えるなかなか力の入った作品といえる。頑張っているとは思うのだが、やっぱりもうちょっと肝心のサスペンス部分で盛り上げて欲しかったという物足りなさがある。主人公の終盤の驚くべき行動も、何で彼女に対してなのかがよく分からなかった。事あるごとにチラ見せしてしていた悪意も途中から見られなくなってしまい、終始暗く淡々としたペースだったこともあって、終盤になるとだいぶ冗長に感じてしまいダレてしまった。
スタッフ/キャスト
監督 石川慶
原作 愚行録 (創元推理文庫)
出演
満島ひかり/小出恵介/臼田あさ美/市川由衣/松本若菜/中村倫也/眞島秀和/濱田マリ/平田満/山下容莉枝
撮影 ピオトル・ニエミイスキ