★★★☆☆
あらすじ
組が解散して地元に戻った元組員の男は、服役中の兄が取り仕切っていた組が弱体化していることを知る。
感想
組が解散し、一匹狼となった男が主人公だ。地元で勢力を伸ばそうと企んでいたよその組を追い出すが、やがてしがらみの中でより大きなものと戦うことになっていく。社会的な圧力の中で昔ながらの任侠道を捨て、生き残りをかけて変わっていこうとする裏社会の組織が相手だ。
義理人情を忘れて変わっていこうとする組織の人間たちが旧態依然のスーツにサングラスの出で立ちなのに対して、昔ながらの任侠を守ろうとする主人公が、らしくない長髪にジーンズで、ジープを乗り回しているのが面白い。さすがに素肌にGジャンはやり過ぎだが、その時代に合わせた任侠道が出来るだろうと示唆しているかのようだ。
そんな主人公のもとに個性的な男たちが集まってくる。だが集団というよりは一匹狼の集まりといった方がいいかもしれない。群れずにそれぞれがやりたいようにやっている。誰かに盲目的に従うのではなく、対等に付き合う彼らの大人な態度には好感が持てた。メンバーひとりひとりが自立していないと出来ない関係だ。
中でも印象的だったのはバイク乗りの男だ。もともと彼は暴力団とは関係ないせいか、何らかのしがらみを感じさせる他の男よりも自由な空気が漂っている。下っ端の組員たちを演説で扇動して敵の組織に突撃し、ダイナマイトを投げ込みまくって大暴れする。かと思えばギターを手にしてしんみりと歌いはじめたり、とフリーダムだ。
ヒッピーを意識しているのだろうが、パンクにもアナーキストにも見えて、強力なルサンチマンを感じる男だった。これを二枚目俳優ではなく佐藤蛾次郎が演じているものだから、奇妙で異様な独特さを醸し出している。彼が渋く歌ってカメラ目線で締めくくるシーンには思わず笑ってしまった。彼には何をやってもコントみたいになる可笑しさがある。
主人公が敵対していた地井武男演じる男と酒場のカウンターで会話するシーンは印象的だ。心が通じ合った二人は、盃を交わす代わりに腕時計を交換する。それまではそうでもなかったのだが、中盤のこのあたりはグッとくるシーンが多かった。そして出番は少ないが目力で存在感を放ってていた梶芽衣子にもグッと来た。
一匹狼たちが巨悪に挑むストーリーで、スタイルは違えども任侠映画らしさがちゃんとあって楽しめる。ただ主演の原田芳雄がシリアスなだけであまり魅力的でなかったのが残念だ。彼の良さは渋い声で男前にもかかわらず、三枚目なところも出来ることなのに、それをうまく活かしきれていない。おかげであまり面白みのない男になってしまっていた。
スタッフ/キャスト
監督 澤田幸弘
出演
地井武男/藤竜也/梶芽衣子/青木義朗/富士真奈美/梅野泰靖/沖雅也/佐藤蛾次郎
音楽 玉木宏樹