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「生きちゃった」 2020

生きちゃった

★★★☆☆

 

あらすじ

 妻と娘とそれなりに幸せな生活を送っていた男だったが、妻の浮気をきっかけにすべての歯車が狂っていく。

www.youtube.com

 

 「B2B(Back to Basics)A Love Supreme(原点回帰。至上の愛)」プロジェクトで製作された作品。

 

感想

 妻の浮気が発覚し、打ちひしがれながら生きる男の物語だ。しかし、浮気のバレた妻が開き直って逆切れするシーンにはドン引きしてしまった。よくある話ではあるのだが、ここぞとばかりに夫に文句を言って自己正当化し、これでいいきっかけが出来たとばかりに離婚を切り出す。

 

 浮気をする前に言っていたなら同情もするが、浮気がバレた後ではただの言いわけにしか聞こえない。それに被害者だからって、何をしてもいいわけでもない。日本人はこんな風に、我慢に我慢を重ね、限界が来たらいきなり爆発して終わらせてしまうことが多い。我慢せずにその都度不平をぶつけてくれていれば、改善して関係を修復することが出来たかもしれないのに、もう無理だとあきらめてしまった後で不満をぶちまけられたって、もうどうすることも出来ない。

 

 

 このやり方だと、別れるにしても我慢に我慢を重ね、限界に達するまでの時間が無駄になる。逆に普段から問題が出るたびに話し合っていれば、互いに分かり合えないことが分かった時点でさっさと別れを決断することが出来るので効率的だ。結婚一年目で離婚するのと、耐えに耐えた後で熟年離婚するのでは、人生の再スタートの難易度が全然違う。別れるにしても、もはや捨て台詞が何も出てこないくらい、普段からコミュニケーションを取っておくくらいが理想だろう。もちろん相手がちゃんと聞く耳を持ってくれていることが前提だが。

 

 感情を抑制していた主人公が、徐々に気持ちを解き放っていく。終盤はかなりウェットな展開になってしまうのだが、これが映画の伝えたいことだったのだろう。主人公がぼやいていたが、英語だと自分の気持ちが素直に言えるのに、日本語だとなぜかそれが出来ない。ネイティブな言語だと、その意味するところが直感的に情報量沢山でやって来るので生々しく、つい口に出すことをためらってしまうのだろう。だが、それでためらわず、ちゃんと自分の気持ちを伝えていくことは重要だ。

 

 この映画ではそんな瞬間をいくつも垣間見ることが出来る。主人公が引きこもりの兄にかけた言葉もそうだし、別れた妻が新しい男に伝えた言葉もそうだった。それから主人公が友人と、主人公の父親が通りすがりのおじさんと、なぜか手をつなぐシーンがあって印象に残ったが、これもまた気持ちを伝えるための手段の一つだと言えるのかもしれない。決してできないわけではないのだから、こんな瞬間を増やしていけるよう努力しなければならない。

 

 現代の日本は、世の中そんなものでしょ?と達観もしくは冷笑的な態度を取ることが賢いとされがちだが、腹が立った時には怒って、悲しい時には泣くような、人間らしさを失わないことは大切だ、というメッセージは心に響く。

 

 鶴見辰吾演じるいかがわしそうなおじさん以外は誰も幸福そうでなく、希望もなさそうな様子だったり、別れてシングルマザーとなった妻がセーフティネットもなくあっけなく転落していく感じだったりと、今の世相が色濃く感じられるものになっているし、随所に可笑しみのあるシーンがあって悪くなかったが、最後がウェットすぎてベタベタになってしまった。これが主題ではあるのだが、あまりにド直球すぎたかもしれない。上手く決まれば最高だったラストシーンも、狙っていたほどの効果はなかった印象だ。

 

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/製作総指揮 石井裕也

 

出演 仲野太賀/大島優子/パク・ジョンボク/毎熊克哉/太田結乃/柳生みゆ/TOBI(レ・ロマネスク)/MIYA(レ・ロマネスク)/芹澤興人/北村有起哉/原日出子/鶴見辰吾/伊佐山ひろ子/嶋田久作/若葉竜也

 

音楽 河野丈洋

 

生きちゃった

生きちゃった - Wikipedia

 

 

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