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「この子の七つのお祝いに」 1982

この子の七つのお祝いに

★★★☆☆

 

あらすじ

 自分たちを捨てた父親を恨み、復讐を果たすよう母親から言われて育った女と、彼女の存在を追うルポライター。

 

感想

 ある政治家秘書の内情を探っていた記者が、情報提供者の殺人事件に遭遇した事から始まる物語。岩下志麻が主演のはずなのに、本筋とは関係なさそうなところでいきなり登場して訝しんでしまったが、どうやらこれは偶然だったという設定のようだ。でも、真相を追うライターの後輩が通っていたバーのママがその張本人だった、というのは、偶然と呼ぶにはあまりに出来過ぎていて、それはもはや奇跡だろうというレベルだ。それでかなり冷めてしまった部分はある。

 

 ただそれを除けば、なかなか見ごたえのある映画だった。まずは岩下志麻演じる女の狂気。彼女は、幼い頃から母親にマインド・コントロールされており、その呪縛に囚われている。それまでも何度かおかしな素振りは見せていたのだが、彼女に協力している昔からの親友を、話しているうちに感極まって殺してしまい、すぐに罪の意識に襲われて泣き崩れるシーンは、唐突に訪れた不条理過ぎるシーンの連続で思わず爆笑してしまった。意図的ではないだろうが、この映画の彼女はどこかコミカルだ。

 

 

 それから、劇中に登場する彼女の学生時代のセーラー服姿の写真もインパクトがすごかった。幼さを表現するなら無難に控えめな髪型でいいのに、なぜか攻めたボリュームのある髪型で写真に納まっていて、違和感が半端なかった。

 

 そして、彼女と両親の過去が明らかになっていく過程もよく出来ていて引きつけられる。ラストには予想外の展開も待ち受けていて、最後まで面白く楽しませてくれる。それらを観ているうちにひしひしと感じてくるのは、昭和のワイルドさだ。戦時中や戦後の人々の壮絶な人生が見えてくる。生き延びるために偽装結婚したり、戦争から戻っても家族の消息が不明のまま何年も暮らしたり、子供がさらわれたりと、ハードな出来事が普通のこととして語られている。

 

 特に、寝てたらネズミに齧られたという話は、そんなことが本当に現実にあるのかと驚いてしまった。ドラえもんの耳が齧られたというエピソードも、当時の人たちにはあるあるな話だったという事なのか?と思ったりした。

 

 この映画は、事件の全容を明らかにするというだけではなく、その背後にあった昭和の過酷だった時代を描こうとしているように感じられる。そんな時代を象徴するような母親から負の遺伝子を引き継いで、今を生きてしまっているのが彼女だということなのだろう。こうやって過去は、なかなか純粋な過去にはなってくれない。

 

 今だって、これは遠い昔のことのように感じてしまっているが、この戦後間もない時代に生まれた世代が今まさに日本の中枢にいて、物心ついた時に身に付けたこの頃の感覚で現代を生きているわけで、まだまだ昭和の残滓はあちこちに残っている。今だに「昭和かよ!」と思うような出来事に何度も遭遇してしまうのはきっとそのせいだろう。昭和が本当に過去のものとなるのは、まだまだ遠い先の事になりそうだ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 増村保造

 

原作 この子の七つのお祝いに (角川文庫 (5890))

 

製作 角川春樹

 

出演 岩下志麻/岸田今日子/根津甚八/杉浦直樹/辺見マリ/村井国夫/芦田伸介/畑中葉子/室田日出男/小林稔侍/神山繁/名古屋章/坂上二郎

 

音楽    大野雄二

 

この子の七つのお祝いに - Wikipedia

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