★★★☆☆
あらすじ
幼なじみの同級生に一緒に漫才をやろうと誘われるも、彼がネットで知り合った別の男とも漫才をやろうとしていることが判明し、釈然としないものを感じる高校生男子。
感想
お笑い好きの高校生が主人公だ。学校の人気者である幼なじみに漫才を一緒にやろうと誘われる。しかし、お笑い好きとはいえ、高校生が普通にしっかりとした漫才ネタを作ったり、それついての深めの論評が出来たり、日常会話でお笑いの公式のようなものを持ち出してくる世界に若干引いてしまう。いや高校生に限らずそういう人たちが実際にたくさんいることは知っているが、改めて文字として読むと色々と思うところがある。
しかしそんな風に芸人として売れる方法まで考えているような主人公たちだったのに、ググラビリティの低い「あじさい」なんてコンビ名をつけるのは意外だった。だがこれは、このコンビが短命であることを示唆するために敢えてそうしたのかもしれない。
主人公とのコンビとは別に、幼なじみは他の同級生ともコンビを組む。物語は主人公がこのコンビを見つめる形で展開されていくが、当然話の中心はお笑いについてだ。ここ最近定番化してきた人を傷つけない笑いや、もはや伝統芸能のようにルーティン化して行われるお笑いのようなもの、また面白さを掲げることで何かから逃げようとしているのではないかといった事まで、多くのトピックに言及している。
世の多くの人たちが芸人を真似るようになり、その真似事をあちこちで見かけるようになった社会でこれらの指摘はどれも興味深い。ただ、核心を突いてしまわないようにその周辺だけを丁寧につついている感じが、読んでいて逆に疲れた。これも主人公らが、人を傷つけないだけでなく、自分も傷つかないように細心の注意を払ってふんわりと人と接する現代の若者たちだから敢えてそうしたのだろう。だがもういっそのことズバリと核心を突いて欲しいと願ってしまうような煮え切らなさがあった。
主人公の終わりの話が展開されるのかと思っていたら実は全然関係なく、かと思っていたら最終的には始まりの話になる物語の構成は面白かった。
著者
大前粟生