★★★★☆
あらすじ
駆け出しの漫才師の男が、営業先で出会った先輩芸人に弟子入りする。芥川賞受賞作。
感想
書き出しから気合の入った文章。やっぱり芥川賞はちゃんとした賞なんだなと安心した。初小説とは思えないクオリティの高さ。
先輩に対してどこか自分と似ているとシンパシーを感じていたのに、よくよく見ると自分とは全然違うことに気づいて落ち込んだり、凄い才能に憧憬の眼差しを向けながらも、世間とうまく折り合いをつけてその才能を十分に発揮しようとしない事に苛立ちを感じたりと、主人公の心の葛藤がうまく描かれている。
それにしても芸人である主人公は、面白いことは言っているのに全然本人が笑っている様子がなく、逆によく泣いているのが面白い。そして、同世代の芸人たちがテレビで活躍するのを見てもネットで批判されても、嫉妬や反発を見せず、常に冷静で謙虚なのも興味深い。
p42
流行の言葉を簡単に使いこなす器用な人間を僕は恐れていた。
謙虚というよりも、他の人のように普通のことが普通に出来ない自分に後ろめたさを感じているのかもしれない。
漫才師の話だが、ほとんど相方とのやり取りや漫才のシーンはなく、先輩芸人とのやり取りを中心に描かれていく。そうした中で後半突然現れた漫才シーンで胸が熱くなってしまった。先輩の、売れずに消えていった芸人たちを含めたすべての芸人に対する想いも良かった。
ハッピーエンドではないが、希望の光はまだ灯っていることを示すラストは心地よい読後感。「キッズ・リターン」的な。
著者
又吉直樹
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