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「女ざかり」 1993

女ざかり (文春文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 新聞に書いたある記事が原因で政府から圧力をかけられ、論説委員から外されそうになった女性は、あらゆるコネクションを使って真相を探り、それを阻止しようとする。

 

感想

 政府に圧力をかけられ、異動させられそうになった新聞社の女性社員が主人公だ。どうやら背後に宗教団体の働きかけがあるらしいとか、政府がマスコミに圧力をかけるとか、まるで今の政治を見ているかのようだ。きっとこの時代から政治は何も変わっておらず、それどころかむしろ酷くなっているのかもしれない。悪い意味で感慨に耽ってしまう。圧力に簡単に屈してしまう新聞社も同様だ。

 

 突然の異動の打診に違和感を覚え、主人公は真相を探り始める。新聞記者は普段から色んなジャンルの人と会っているからこういう時は強い。特に主人公は、かつて各界を代表する期待の若手を取材する特集記事を担当したことがあり、今はそれぞれの世界で大物となっている彼らとコネクションがある設定なのが面白い。思わぬところから意外な情報が入ってくる。

 

 そして主人公が様々な人に会い、様々な会話を交わす中で浮かび上がってくるのは、贈り物、贈与に関するあれこれだ。人々は生活の中で様々な贈り物をし、そしてお返しを貰っている。これは何もモノに限った話ではなく、それは時に情報だったり地位だったり、選挙の票だったりする。新聞記者である主人公にとっても、ギブアンドテイクの原則は取材相手から重要な情報を引き出すために有用な技術のはずだ。女ざかりの主人公には、見返りを勝手に期待する男性から特別な情報が提供されることもあるかもしれない。

 

 

 登場人物の一人などは、憲法で物のやり取りについて触れていないのはおかしいとまで主張している。日本は特にこの贈り物の文化が幅を利かせている特殊な社会であることを描き出そうとしているのだろう。この文化自体は悪いことではないが、相応しくない場面でもそれで通そうとしてしまっているから問題が起きてしまう。それが顕著なのが政治の世界で、政治家は有権者に金を配って有権者は見返りに投票するし、政府は外国にお金を贈ることが外交だと思っている。

 

 これもまた今の政治と変わっておらず、悪い意味で感慨深い。ただ最近は、政府は企業や友人に金を配ってその見返りに献金を貰うのが主流で、一般国民は蚊帳の外だ。さらには国民に隠れて献金を裏金にし、陰でコソコソと閉じた世界でまた贈り物をし合っているようだ。どうせ投票も献金もしない国民に金を配ったところで見返りがないと思っているのだろう。贈与の論理で政治を行うと社会がそっちのけとなって弊害ばかりだ。助けるべき人が助けられない。

 

 最終的には主人公が首相官邸に乗り込み、総理に直談判する。官邸での出来事はスリリングだった。多くの人が絡む複雑な貸し借りの相関関係が作用して、主人公の問題の落としどころが決まっていく過程は読みごたえがあった。そして政財界を巻き込む大きな話をしておきながら、最後は男女の贈与の話で締めくくるところが心憎い。

 

著者

丸谷才一

 

 

 

登場する作品

奥の細道

詩経 (講談社学術文庫)

副島種臣伯 (みすずリプリント)

日本外史 全現代語訳 第一巻: 巻之一 源氏前記 平氏 日本の歴史書現代語訳

孝経 (タチバナ教養文庫)

「座頭市(1989)勝新太郎ディレクターズカット」<4Kデジタルリマスター版>

百人一首 (講談社学術文庫)

口訳 古事記

漢書〈1〉帝紀 (ちくま学芸文庫)

ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学 (中公文庫)

 

 

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