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「大人のための昭和史入門」 2015

大人のための昭和史入門 (文春新書)

★★★☆☆

 

内容

 昭和史の主な出来事を、最新の研究に基づいて読み解いていく。

 

感想

 タイトルには「大人のための」とあるが、大人なら常識的に持ってるはずの知識を前提に、という意味なら、その前提となる歴史知識が深すぎるような気がする。単純に自分が大人のくせに知識が浅すぎるだけなのかもしれないが、だいたいどれも深いところからさらに深いところに入り込んでいくので、ついていくだけで精一杯のものが多かった。昭和史にそれなりの知識がある人がそれを深めるためには良い本のような気がする。

 

 まず冒頭の半藤一利らによる座談会で、世界から見た昭和の日本の動向について話し合われているのだが、その中で日本がことごとく世界の情勢を読み間違えていた、という指摘には、頭がクラクラとしてしまった。それなのに意気揚々と威勢よくやっていたなんて、まるでピエロのようだ。このあたりは色々な見解があって意見が分かれるのだろうが、それでもその後、敗戦という大失敗をしてしまったわけなので、どこかで何かを間違えたのは間違いない。

 

 

 座談会の後は、各識者がそれぞれ昭和史の重要なトピックを取り上げて解説していく。その中で印象的だったのは、戦後の天皇の人間宣言というトピックで語られる天皇とマッカーサーが一緒に並んだ写真の話。写真の二人の姿を見て「そりゃ日本は戦争に負けるわけだわ」と多くの人が一瞬で納得してしまったという。政治や軍のシステムがどうとか、社会体制がどうとかいちいち説明しなくても、たった一枚の写真で理解させることが出来てしまった。視覚に訴えることの重要性がよく分かる。百聞は一見に如かずだ。

 

 日本人がマッカーサーに烈しく求めたのは情緒的紐帯、すなわち父として、自らの保護者、庇護者としてのマッカーサーであった。「保護者」に求めるものとは、自分を保護し擁護し、そして承認してほしいという欲望と不可分にある。

p210

 

 そして占領政策のためにやって来た、つい最近まで敵として戦っていたマッカーサーを、日本人が熱烈に支持したというのもなんだか不思議な気がしてしまった。でも最近でも前アメリカ大統領だとか前首相とかを熱烈に支持する人がいたのだから、これは動物的な本能なのかもしれない。「保護者」を求めるという事は、まだ精神的に未熟な子供と同じという事だが、こういう人たちは日本に特に多いような気がする。SNSで「保護者」の承認を求めるかのように、必死に媚びてアピールしている人たちをよく見かける。 

  

 読んでいると色々と議論を呼びそうだなと想像してしまうような箇所もあって、近現代史というのは厄介だなと思わなくもない。でも、戦国時代の話で感情むき出しの議論になることはまずないのだから、近現代史でも同じように議論出来ればいいのに。最近のことだけに妙に感情移入してしまって冷静になれない人が多いから難しいのか。

 

 日本では現代史を学校でちゃんと教えないとよく言われるが、もしかしたらそういった事も影響しているのかもしれない。でも、日本が世界と対峙するようになった近現代の歴史を知らないと、世界の中で日本がなぜ今の位置にいるのか理解できないし、その地位を向上させるにはどうすればいいのかも見えてこないはずだ。いつまで経っても「保護者」を求めているようでは駄目だろうと思うが、別にそれで構わないと思っている人も割と多そうだ。

 

著者

水野和夫/船橋洋一/保阪正康/半藤一利/出口治明/佐藤優/川田稔/広中一成/井上寿一/別宮暖朗/北村稔/田嶋信雄/佐藤元英/宮崎哲弥/五百旗頭真/日暮吉延/福永文夫/眞嶋亜有/木村幹

 

 

 

登場する作品

講和会議を目撃して

Myths of Empire: Domestic Politics and International Ambition (Cornell Studies in Security Affairs) (English Edition)(帝国の神話)」

アメリカの鏡・日本 完全版 (角川ソフィア文庫)

十八史略 (講談社学術文庫)

「満蒙問題私見」 石原莞爾

中国近代軍閥の研究 (1973年)

二・二六事件 脱出

「特高 今こそ私は言える」 小坂慶助

日中戦争−戦争を望んだ中国 望まなかった日本

正義論

正しい戦争と不正な戦争

昭和天皇実録 第一

 

 

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