★★★★☆
あらすじ
パレスチナ。自動車修理工場で働く二人の男は、ある日、自爆テロの実行犯に選ばれたと告げられる。
感想
何でもない普通の一日が終わろうとする時、誰かに突然「明日の自爆テロの実行犯に選ばれたからよろしく。」と言われて、即答で「喜んで」と答えられる感覚が理解できない。一種のマインドコントロールではあるのだろうが、でもこれが信仰の力なのだろう。しかし、本当に普通の自動車修理工場の若者といった感じだったので驚いた。
そして翌日、着々と作戦の準備が進められる。犯行声明を撮影したり身を清めたり、殉教者、英雄として扱うための儀式のようなものだが、それを見守るリーダーらの緊張感のなさが面白かった。こういうのを見てしまうと、やはりなぜこの人たちの誰かではなく若者二人にやらせるのか?という欺瞞を感じてしまう。普通の若者の方が怪しまれないからとか組織の存続のためとか、いろいろ理由はあるのだろうが、なんだかんだ言っても結局はただの捨て駒だよなと思ってしまった。
自爆テロは予期せぬ出来事により失敗してしまう。ひとり皆とはぐれてしまった主人公が、単独でテロを実行しようとしたり皆と合流しようとしたりするも、どれもうまくいかず、最終的には自動車修理工場に戻っていつもの仕事を始めてしまうのが可笑しかった。まるで何事もなかったかのように日常に戻ろうとしている。それだけ日常性バイアスというものは強いという事なのかもしれない。しかし主人公は髪を切り髭を剃って別人のようになっているのに、誰もそれにほとんど触れないのは少し違和感があった。
なんとも言えない切ない別れでラスト。自爆テロなどの暴力で解決しようとする事は勇ましく感じるが、あまりに安直で自己満足の要素が強いのだなと実感させられる。結局、自分の気が済むかどうかが重要視されていて、それによって相手との関係にどう影響するかについては言い訳のようなものしか考えられていない。それと比べたら、対話で解決しようとする事は、とにかく忍耐が必要だ。しかもそれは果てしなく、時に百年千年単位の忍耐が必要な場合もある。テロをするより何倍も難しい。それにじっと耐えられる勇気のない者が、我慢できずに暴力に走ってしまうということなのかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ハニ・アブ・アサド
出演 カイス・ナーシェフ/アリ・スリマン/ルブナ・アザバル/アメル・レヘル/ヒアム・アッバス/アシュラフ・バルフム