★★★☆☆
あらすじ
埼玉で仲間とともにラッパーを目指す男は、ライブを行うことを決めて気分が盛り上がる。110分。
感想
埼玉の片田舎でラッパーを目指す若者たちの青春物語だ。深谷市をモデルにした架空の街、フクヤが舞台となっている。だが、何度も出てくるこの市名を「服屋」のことだと思ってしまい、誰かが服屋でバイトでもしているのかとずっと勘違いしていた。
高校を出て数年経つ主人公らは、夜な夜な集まっては曲を作ったり、レコーディングをしたりしている。特に田舎でこういう夢を目指す若者は、得てしてでかい夢を熱く語るだけで何もしないことの方が多いので、ライブ寸前までやるべきことをやっている彼らには素直に感心した。
だが、そんな彼らもそれぞれに事情があり、夢に対する熱量には違いがある。そのギャップはくすぶり続け、いつか引き金となって空中分解を起こしてしまう。田舎は同じ夢を目指す人間の絶対数が少ないので、同じ考え方や熱量を持つ仲間を見つけるのは難しい。これは田舎で仲間と夢を目指すことのハンデとなる。
市の主催する会に呼ばれた主人公らが、参加者からの厳しい質問にたじたじとなるシーンには思わず笑ってしまったが、夢を追うことのリスクや厳しい現実を感じさせるものでもあった。また、現実的に生きる人の目から見れば、夢を追う彼らなんてそんなものだということでもある。
社会に出てわずか数年の彼らだが、親の仕事を手伝う者から無職の者、すでに夢破れて東京から舞い戻った者、そして死んでしまった者までいて、みんな同じだと思っていた高校時代とは違うそれぞれの人生を歩んでいる。夢をあきらめた時には、その場所から人生をやり直さなければならない。
型通りの青春物語でありながら、ピークが少数の年配者を前にしたステージというとんでもなくこじんまりとしたしょっぱい内容なのが、なんともいじらしくてグッとくる。これが彼らなりの青春だ。夢を追う者なら誰しもが通る道で、このPDCA的なサイクルを徐々に大きくしながら繰り返していく。その途中で多くは脱落し、そして限られたごく少数の者だけが成功を手に入れることになる。
ラストは寒くもありつつ熱くもあって、どうにも居たたまれない気持ちにさせられた。青春のほろ苦さだ。埼玉の片田舎で、ここでやるんだという気負いと、こんなところでやっても…という不安がないまぜになった田舎の人間特有の屈折した地元愛が感じられるのもいい。鉄塔を背景に土手を歩く主人公の姿が印象に残る。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 入江悠
出演 駒木根隆介/みひろ/水澤紳吾/杉山彦々/奥野瑛太/益成竜也/上鈴木伯周
音楽 岩崎太整
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