★★★☆☆
あらすじ
わずかな所持金で日曜日を過ごそうとする若い男女。
感想
若い男女が過ごしたとある日曜日の様子だけで構成される面白いアイデアの映画だ。お金もないのに何とか楽しく過ごそうとする二人の姿は微笑ましいが、若いとはいえ、彼らが貧しい学生ではなく、すでに普通の社会人であることを考えると切なくもある。この時の役者の実年齢は男が30歳、女が20歳くらいだが、映画の中では何歳くらいの設定だったのだろうか。
お金がないのなら家でじっとしていればいいのにと思ってしまうのだが、男の住む部屋を見たらそうもいかないことがよく分かった。男は六畳一間だけの友人の部屋に居候をしている。家にいれば気詰まりだし、居候している手前、友人に気兼ねするだろうしでずっと部屋にはいられず、外に出るしかない。ましてやそこに彼女を連れて行くなんて図々しすぎる。家族と暮らす女の方もきっと同じような環境なのだろう。
しかし、こんな狭い部屋で複数人で暮らす時代があったなんて信じられない。プライベートな時間がなくて辛そうだが、こんな風に暮らしていたらニートなんて生まれそうもないので、そんな子供がいて困っている人は敢えてそういう環境に引っ越しするのも手かもしれないなと思ったりした。夜な夜な外に出かけていくようになりそうだ。
何かにつけてすぐにいじけてしまう男に対して、常に明るく振舞う女がいじらしい。互いに違う性格の方が相性がいいのかもしれないが、男は女から励まされるからいいとして、女は男から何かいい影響を受けているのだろうかと考えてしまった。この映画は女目線で見ると、すぐに僻む男を必死にあやすだけの、めんどくさい物語に見えてしまいそうだ。
ただ彼らの会話から、男は以前はこんな感じではなかったのに、戦後のどさくさを要領よく生きられず、一時的に自信を失ってしまっているだけだという事は示唆されている。女は男のその昔の姿が本当の姿だと信じているのだろう。それに楽観的すぎる人間は、悲観的な人間がいる事で程よい慎重さを手に入れることができる、という事もある。
彼らの慎ましやかな幸せは、何度か世知辛い世間によって邪魔されてしまうのだが、その中に安いチケットを買い占めるダフ屋もいて、こんな時代から転売ヤーが人々の幸せを邪魔していたのだなと呆れてしまった。しかも彼らの言い分まで今とほぼ同じだ。歴史と伝統のある職業といっていいのかもしれない。
二人は彼らには正義感を燃やし、また、何度か金銭を手に入れる機会もあったのに頑としてそれを受け取らなかった。この誠実さや高潔さには好感が持てるが、きっとそれが彼らを貧しくさせている原因なのだろう。もっとうまくやれよと世間が言っている声が聞こえるようだ。
ちょっと冗長な感じがあり、観客に拍手を呼びかける賛否のあるシーンも個人的にはなしだと思うが、若い男女を励ますような優しさや、そんな若者たちに対して冷たい世の中への批判精神も感じられ、善良なる人々を見守る監督の温かいまなざしが感じられる作品となっている。
スタッフ/キャスト
監督
脚本 植草圭之助
製作 本木荘二郎
出演 沼崎勲/中北千枝子/渡辺篤/菅井一郎/堺左千夫
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