★★★☆☆
あらすじ
飛行機を乗っ取ったハイジャック犯が、自身の生涯について語る。
感想
主人公は、集団自殺したカルト教団の生き残りだ。親が信者だった宗教2世で、生まれた時から教団が命じるままに生きてきた。成長した彼は長男でなかったために外の世界に送り出され、教団の資金を稼ぐために働かされている。
教団から離れて自由な世界に放り込まれたら、世俗社会に感化されてしまいそうなものだ。だが彼は律義に戒律を守って生きている。マインドコントロールの恐ろしさだ。教団は、信者に他者との接触を制限するなど指導をしており、金づるが逃げないよう管理を徹底している。彼らのそのしたたかさにも怖さを感じてしまう。
ある時、教団本部の者たちが集団自殺してしまう。外の世界にいる信者たちも本当はそれに続かなければいけないのだが、主人公はなんとはなしに日延べを繰り返し、いつの間にか長い年月が過ぎてしまっていた。だがこの気持ちはよく分かる。やろうとは思っていたのにタイミングを逸してしまったやつだ。そんな彼が自殺志願者からの電話相談を受けて自殺をけしかけているのが可笑しいが、本当は彼自身が誰かに背中を押してもらいたかったのかもしれない。
外の世界に取り残された信者たちが次々とこの世を去り、ついに主人公はカルト教団のたった一人の生き残りとなってしまった。そして商機を感じたエージェントに目を付けられ、有名人に仕立て上げられてしまう。だが彼はただエージェントに従うだけで淡々としており、何も感じていない。カルト教団がなくなっても、彼は誰かの命令を待っている。
ひょんなことで知り合った女性や実の兄なども登場しつつ、主人公の人任せで奉仕するだけの日々が続く。そして何やかやがあって冒頭のハイジャックシーンへと繋がっていくのだが、その一連の出来事のきっかけとなったNFLスーパーボールのハーフタイムショーで行われた主人公の予言には思わず笑ってしまった。そんなこと言ったらそりゃ暴動になるよと思ってしまう類の予言だった。
最後は悲しい結末となるが、未来をなんでも予知できる女性の言葉を信じるならば、主人公は死ななかったと考えることも出来る。カルト教団はあの世で幸せになれると説いたが、この世でもちゃんと幸せになれるのだと主人公が気付き、そして実際に幸せになったのだと思いたい。
著者
チャック パラニューク
登場する作品
「花言葉(Le langage des fleurs (French Edition))」