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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「うなぎ」 1997

うなぎ [DVD]

★★★★☆

 

あらすじ

  妻殺しで服役した男は出所後、片田舎で小さな床屋を開く。

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 カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。キネマ旬報ベスト・ワン作品。

 

感想

 主人公が浮気した妻を殺して自首し、8年間服役して出所するまでの、普通ならそれだけで一本の映画が撮れてしまいそうな出来事を、タイトルバックの僅かな時間で描いてしまう監督の手腕が見事だ。しかもその間に血まみれで自首するインパクトのあるのシーンで、しっかりと笑いも取っている。

 

 人生を一変させる事件を起こしてしまった後の主人公の姿が描かれていく。妻を殺してしまったことが頭を離れず、一匹のうなぎだけを友として、床屋をしながらひっそりと生きていこうとする。だが、しだいに近隣住民との間に交流が生まれ、紹介でひとりの女性も雇うことになって、少しずつ彼の中で変化が起こり始める。

 

 

 彼の周りに人が集まるのは、仮出所の引受人が地元の名士である住職だったこともあるし、床屋が社交の場なのもある。近隣住民たちが最初は興味ありげに、そしていつの間にか仲間として主人公を自然に受け入れていく様子に温かな気持ちになる。これは田舎の面倒くさいところでもあるのだが、そうは感じさせない程よい距離感がある。主人公が踏み込まれ過ぎないように、一定の距離を保とうとしているからというのもあるだろう。

 

 清水美沙演じる床屋で雇った女性との関係も、自身の境遇を考えて主人公は頑なに距離を取ろうとする。彼女が橋の上から、釣り船に乗る主人公に弁当を渡そうとするシーンは印象的だったが、二回目は受け取りやすいようにロープを使って工夫していたのが良かった。まるで主人公の更生に手を差し伸べる地域共同体の姿を象徴しているかのようだった。拒絶されてもあきらめず、彼を受け入れるために様々な方法を試している。

 

 彼女とその恋人とのトラブルが原因で大騒動になるクライマックスは、見ごたえがあって面白かった。わちゃわちゃとした後に大団円を迎える人情喜劇の定番が見事に決まっている。中でも住職の妻役の倍賞美津子が闘魂を見せて、乱闘の中に割って入るのがカッコよく、そして笑えた。それから怪我して包帯を巻かれ、パイナップルみたいな変な頭でカッコいいことを言う主人公も可笑しかった。皆、人間味あふれる姿をさらけ出している。

 

 殻に閉じこもっていた主人公が心が開くようになり、明るい気分になれる結末だった。周囲の人たちに恵まれたのが大きいが、これが本来の地域共同体の良さなのだろう。今みたいに希薄なのも良くないが、かといって濃すぎても困るのでなかなか厄介だが。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 今村昌平


脚本 天願大介/冨川元文


原作 「闇にひらめく」 「海馬(トド)(新潮文庫)」所収


製作総指揮 奥山和由


出演

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清水美砂/倍賞美津子/田口トモロヲ/佐藤允/哀川翔/平泉成/上田耕一/光石研/深水三章/小西博之/小沢昭一/常田富士男/市原悦子/北村康(北村一輝)

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音楽    池辺晋一郎

 

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うなぎ (映画) - Wikipedia

 

 

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