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「アンダー・ユア・ベッド」 2019

アンダー・ユア・ベッド R-18版

★★★★☆

 

あらすじ

 親から忘れられるほど存在感がなく日陰の人生を歩んできた男は、学生時代に一度だけ自分の名前を呼んでくれた女の家を探し出し、不法侵入をくり返し生活をのぞき見するようになる。

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感想

 存在感のない男が、唯一自分の存在を認めてくれた女性の家に忍び込み、ベッドの下から彼女の生活を覗き見る物語だ。位の高いストーカーといったところだろうか。主人公は存在感のない設定だが、男前の高良健吾が特徴のある髪型で演じているのであまり説得力はない。

 

 だが、主人公を存在感のないキャラとして描くのは、なかなか難しいことなのかもしれない。主人公にする時点で既に目立ってしまう。それに存在感を消そうとすればするほど、悪目立ちしがちだ。この映画の主人公も、無口で自己主張しないことで目立たない男であることを表現しようとしているが、どんな状況でも頑なに無口で自己主張しないことを押し通そうとするので異様な凄みが出てしまい、逆に目立っているような気がする。

 

 

 そんな主人公が付きまとうのは、これまでの人生で唯一自分の名前を呼んでくれた女性だ。彼女は、誰にでも笑顔で感じよく接する。こんな女性は確かに多くの男を誤解させやすい。主人公もその一人だ。彼女はめちゃくちゃ美人というわけでもないが、それが、自分みたいな男でもイケるかも、と男に希望を持たせてしまうポイントなのかもしれない。もちろん彼女は何も悪くなく、そんなことで勘違いしてしまう男たちがすべて悪いのだが。

 

 やがて主人公は、合い鍵を入手してたびたび彼女の家に忍び込み、ベッドの下から彼女の生活を覗き見るようになる。完全にヤバい奴ではあるのだが、そこでの彼の行動がすべて想定の範囲内で面白みがなく、物足りなさがあった。もっと常人には想像もつかない江戸川乱歩の世界のような異常性や変態ぶりを見せて欲しかった。この主人公は凡人の変態でしかない。

 

 これだけだとただの残念な映画だったが、現在の彼女が大きな問題をひとりで抱え、誰にも助けを求められない状況だということが物語を面白くしている。ひとりのはずの家で常に誰かの視線を感じ、居心地の悪さを感じている彼女だが、次第に心のどこかで誰かが見守ってくれている、だから自分はひとりじゃない、と不思議な安心感を抱くようになる。

 

 ところで彼女は最初のころ、誰かに見られているような気がすると相談しても、産後で精神が不安定になっているだけだからと医者がまともに取り合ってくれなかったと不満を漏らしていたが、そりゃそうだろうと笑ってしまった。医者だってまさか物理的に本当に誰かが見ているとは思わないだろう。そんな相談があるたびに「警察を呼んで調べてもらってください」なんて言っていたら、それこそ医者の精神状態が疑われてしまう。

 

 彼女の抱える問題を唯一知ってしまっている主人公は、ラストでその解決のために活躍する。ただのストーカーでしかないのにヒーローみたいになってしまうのが奇妙で香ばしい。そして、それまでの主人公の行動が報われ、救われる一言で幕を閉じるラストは見事に決まっていた。

 

 実際のところは、いくら彼女が心のどこかで守られているような安心感を抱いていたとしても、誰かがずっと家のなかで隠れて自分のことをのぞき見していたと知ったら、感謝なんかするわけなく、シンプルに気持ち悪いと絶句し卒倒するだけだろう。そうは思いつつも、なんだかんだで楽しめる物語だった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 安里麻里

 

原作 アンダー・ユア・ベッド (角川ホラー文庫)


出演 高良健吾/西川可奈子/安部賢一

 

アンダー・ユア・ベッド - Wikipedia

 

 

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