★★★★☆
あらすじ
密告により危険人物が捕らえられ、公開処刑されてしまう監視社会で、体制に楯突く謎の男が現れる。
感想
軽やかな雰囲気のタイトルからは想像できない、ずっしりとした内容の物語。警察組織の中に平和警察というテロを未然に防ぐための組織ができ、各地に監視カメラが設置されて密告が奨励され、危険とみなされた人物が捕らえられる。捕らえられた人間は拷問を受け、自白を強要されて公開処刑となり、疑いが晴れたものはいない。中世の魔女狩りのような、戦中の特高警察のような取り締まりが行われている。
真面目な感じに見えるけれど、怖いんだから。いや、真面目だから怖いんだよ。
p251
人々の妬み嫉みが密告を生み、公開処刑には熱狂する、人間の嫌な部分が露出し、そしてそんな彼らの餌食にならないよう皆が萎縮している。そんなのは荒唐無稽なありえない話だと笑い飛ばしたいが、現実の今の世界を見ると素直に笑い飛ばせない自分もいる。
前半はただ暗い出来事や事件が積み重なっていくだけで、何かが起きそうで何も起こらない肩透かしの展開が続くが、実は伏線を張り巡らしていたのだということに後で気づく。そして、体制に楯突く謎の男が現れて、警察がその姿を追い、やがて正体が明らかになっていく終盤の展開はぐいぐいと引き込まれる。
正義のヒーローが現れたことで物語は良い方向に向かいエンディングを迎えるわけだが、どこかすっきりしないのは大勢の無実の人間が既に処刑されていること。これは意図的なのだと思うが、どんなヒーローも全員は助けることが出来ないのだから、もう犠牲が出るのはどうしようもない、ということにしている。
ラストの方で説いている、社会は正しい道を真っ直ぐに進むことはほとんど無く、振り子のように右左に振れながら進んでいて、それは仕方がないことだからせめてその振り子の振り幅が大きくならないように注意する必要がある、というのは本当にその通りだ。常に振り幅が大きくなりそうになったら逆方向に戻せるようなバランス感覚を身に着けなければいけない。振り幅が大きくなりすぎて、多くの犠牲者を出したり、ヒーローの登場が期待されるような世の中にならないように。
著者
登場する作品
「魔女への鉄槌」