★★★★☆
内容
小津安二郎の現存する全作品に触れながら、監督の描こうとしたものを読み解いていく。
感想
監督の映画作品を年代順に見ながら語られていく。個人的には彼の作品の初期の作品はほとんど見ていないので、見ていない映画の話が続く序盤はちょっとしんどかった。だが読んでいるとどんな撮り方をしているのか、なんとなく理解できてしまうのは不思議。
しかし、この時代の映画監督は、サイレントからトーキー、白黒からカラーと、大きな変化に何度も対応しなければいけないので大変だ。これは監督だけでなく、役者やスタッフ、映画界全体の話だが。きっと対応できずに消えていった人も多いのだろう。
監督の特徴である座っているにしては低すぎ、寝ているにしては高すぎの不思議な高さのローアングルのショット。宇宙へつながるのぞき穴から覗いているような、という表現は面白い。人間の視線ではなく、神の視点のような。その神は欧米の高いところにいる神ではなく、日本的な八百万的などこにでもいる神の視点。人物が動いてもカメラが留まり続ける事により、永遠不滅なものを感じさせる撮影手法。
大体鑑賞している作品について述べられている後半は、より興味深かった。ただ延々と同じようなことを繰り返し述べているだけのような気もしてしまったが。
小津作品は、最初は普通の大衆映画をとる監督という認識だったのが、いや実は小津はすごい、と高く評価されるようになったという経緯があると思うが、今は逆に偉大な監督というのが前面に出すぎてしまっている。小津の映画は高尚な(つまらない)作品だろう、と敬遠している人も多いような気がする。
でも実際に見てみると、彼の作品は普通に映画として楽しめる。なので今は「小津はすごいが何よりも面白い」とちゃんと面白さも強調していくことが必要な時期に来ているのかもしれない。高尚で難解な作品と誤解されて、観られないのはもったいなさ過ぎる。
著者
前田英樹
登場する作品
「現在についての記憶と誤った再認」 ベルクソン
登場する人物