★★★★☆
あらすじ
女遊びを続ける中年の作家は、ある日迷い込んだ私娼窟で一人の女と出会い、心惹かれる。
感想
主人公の女遊びは中途半端なものではなく、母親にその詳細を堂々と語り、小説に書いてそれを晒すという徹底したもの。もはやニヤニヤして茶化す類のものではなく、正座で姿勢を正して話を聞きたいくらいの達人の域になっている。何であれ、その道を極めようとする人はスゴいということだ。
そんな男を津川雅彦が見事に演じている。どんなときでも飄々として、慌てず動じず、淡々としている。周りの反応にリアクションするのではなく、自分の思うがままに行動しているように見える。濡れ場のねちっこい感じとか、これぞ津川雅彦という感じだ。
そして、次第に影を落とす戦争の影響。敵国のアメリカよりも自国政府の悪政の方が被害が大きいと冷徹に分析してみせる主人公や、お上の言うことは聞くけど徴兵で息子を殺されたらただじゃおかないと凄んで見せる女主人。時々、国に対する反骨心が垣間見られる。こうやって社会の中心から外れて右も左もなく生きている人間のほうが、よく見えることもあるのかもしれない。
若い女の幸せのためには、倍以上年齢の離れた自分ではなく、彼女と同じ若い男のほうがいいと、思いを募らせながらも身を引こうとする主人公。恋愛は冷静になってしまうとうまくいかないものだなと痛感する。何も考えずに動ける勢いが重要だ。だから、結婚なんかも世間知らずで身の程知らずの若いうちにしてしまう方がいいのかもしれない。分別がつくと、前に進めない。
主人公の下した決断は、その後の女を見ていると正解だったのは間違いないのだろう。だが一方の主人公を見ていると少し切ない気持ちになってしまう。そしてそのラスト、見る者は気の毒と思うかもしれないが、本人はやりきったという満足感があったような気もする。それこそ達人にしかわからない境地かもしれないが。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 新藤兼人
原作
出演
墨田ユキ/宮崎美子/瀬尾智美/杉村春子/乙羽信子/佐藤慶/井川比佐志/河原崎長一郎/上田耕一/大森嘉之/原田大二郎/角川博
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