★★★★☆
内容
世界中から注目されている人気の都市ポートランドの街づくりの取り組みを紹介する。
感想
おしゃれなレストランや店が並び、至る所にアート作品が展示され、文化が栄える賑やかな街。車がなくても生活できるエコでサステイナブルな街。続々と人々が集まる人気の都市ポートランド。その取り組みの内容を読んでいて良く分かるのは、これは一朝一夕で成し遂げられた事ではなく、長い時間をかけた地道な取り組みの積み重ねの結果、という事だ。
車型社会となり、都市の中心部は空洞化して治安は悪化し、環境破壊が深刻化する70年代にはもうその取り組みが始まっている。全米に張り巡らされていく高速道路の工事を拒否し、その代わりにライトレールなどの公共交通網の整備を行った。この辺りの先見の明、決断力には感心する。70年代のこの決断により独自の道を歩んだことが、今日の繁栄を招いているわけだ。
時代に流されず独自の道を選んだ住民たちの意識の高さには驚くしかないが、アメリカが元々移民の国で、さらにポートランドにはプロテスタントよりもリベラルな宗派の移民が集まっているという事もあるようだ。リベラルな傾向があった上にその後のヒッピー文化の影響を受けた土地でもある事から、自然を愛し、地元を愛し、自由を愛し、自分たちの暮らしを大事にする文化が育まれたという。そして同じような生活を志向する人たちが集まってくる好循環。
しかし彼らは地元を愛し、地元で作られたものを愛用する地産地消の文化があるというが、地元のブランドとしてナイキやコロンビア、ペンドルトンやダナーなどの世界的なブランドがあるのはちょっとズルい。逆に世界に通用するものを作れる人たちを輩出する豊かな場所という事でもあるが。
勿論、都市計画という町全体の方向性を決めるのは政治の力が必要なわけだが、民主主義なので住民の望まない事をしようとする政治家は当然、選挙で勝てない。政治家もそれを分かっていて、計画立案の段階から地域住民が参加する仕組みを作っていて、なるべくたくさんの住民の意見を取り入れようとしている。さらには、完全な住民まかせにしている分野もある。
日本だと自治体が独断でもしくはデベロッパーと組んで立案し、都市計画が完成してからアリバイ作りとして住民向けの説明会を形式的に行うという印象だが、それとは正反対過ぎてびっくりしてしまった。日本も民主主義とはいえ、お上がやってくれる、有難くもお上がやってくれることに文句を言っちゃいけない、という封建主義的な意識が未だに根強く残っているのかもしれない。
長い歴史の中で住民と政治が一体となって作り上げてきた街づくりの仕組みの中には、なるほど、と感心させられるものもたくさんある。
ポートランドでは公園のスペースを2倍にするなら建物の階層制限を2層増やしてもよいというようなやりとりをする。
p60
デベロッパーは出来るだけ土地を無駄なく使って建物を建てようとする。しかし、市が厳しめな制限を最初に設けておいて、その代わり街にとって良い事を盛り込めば制限を緩めるよ、という事にしておけば、延べ床面積を増やしたいデベロッパーは喜んで応じるし、それによって地域の魅力や価値が高まって住民は喜び、単価も上がってデベロッパーは儲かり、そして市の税収は増える、とまさに三者がウィンウィンの関係になる。素晴らしい。
ポートランドのやり方を日本に取り入れた柏の葉や和歌山県有田川町の街づくりの取り組みも本書の中で紹介されているが、中途半端な内容になってしまっているのが残念。長期的なスパンで行われることなのでまだ結果が出ておらず、仕方がないのだが。
ポートランドの取り組みを読みながらも、日本ではどれくらいの都市が真剣に街づくりに取り組んでいるのだろうか、と考えてしまった。目先の事ばかりに囚われて長期的な視点がなく、結果的にまとまりのない、雑多な印象の景観に仕上がってしまっている町が多いように思う。自身の任期を基準に考える首長や地方議員は長期展望をしづらい部分はあるので、結局は政治家任せにするのではなく、自分たちの住みたい町を政治家や公務員に作らせるという住民の意識が大事ということだ。
これから人口が減り地方都市が消滅していくと言われている世の中で、生き残るのはきっと今この瞬間も、将来を見据えて地道な取り組みを続けている町なんだろうなと思った。
著者
山崎満広
登場する作品
Better Together: Restoring the American Community (English Edition)
グリーンネイバーフッド―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた