★★★★☆
内容
中国で起業し世界的なIT企業へと成長させたアリババグループのジャック・マーの歩みを紹介する。
感想
先日(2019年9月)引退したことで話題になったアリババグループの創業者、ジャック・マーの歩みが、2014年9月のニューヨーク証券取引所に上場する直前までの歩みが描かれている。
なんとなく知っているだけの人物だったが、彼が元教師でITに詳しい理系の人ではなかったということに驚いた。大学で英語などを教えながら最初に起業したのは翻訳の会社だったという。たまたまアメリカで出会ったインターネットに触発されて、中国に戻って新しく会社を始めた。
自宅の片隅でビジネスがスタートし、やがて巨大な投資を得て、度重なる困難に立ち向かいながら成長していく。どんな大企業にも何かの拍子で倒れてしまうような赤ちゃんのような時期があって、それがどんどんと大きくなっていく過程は読んでいてワクワクする。
そしてその過程にはたくさんの幸運に恵まれていることが良く分かる。アメリカでインターネットに出会ったのもそうだし、初期の段階で海外で弁護士や投資会社などでの実務経験がある国際的な人物が加わったのもそうだし、いきなりゴールドマンサックスや孫正義から資金調達できたこともそうだ。
「本当のところ、やろうと思った最大の理由はインターネットを信じていたからではなくてね。何にしてもやってみるだけで、それだけで勝ちだと思ったんだよ。とりあえず新しいことをやってみて、だめそうだったら引き返せばいいじゃないか。最初からやらなかったら、いつまでも経っても同じで、新しい展開は決してやってこないよ」
p36
ただ詳細によく見てみれば、この幸運は彼自身の行動が引き寄せていることに気づく。当時、アメリカでインターネットを見た中国人は彼一人ではないはずだが、だけどそこから起業し大成功した中国人は彼だけだ。なにはなくともまず大事なのは行動力なんだな、と痛感させられる。
アリババグループの歩みを見ていると、様々なサービスが必要に応じて生まれていっており、IT業界の流行や儲け話に左右されない強い信念を感じる。ジャック・マーの語る含蓄のある言葉を聞いていると、世界的な企業になるには小手先の事だけでは駄目なんだなと思い知らされる。
ただ中国は国内だけでも10億人以上の市場があるのはうらやましい。国内でシェアを取るだけで、世界が無視できない存在になれる。日本でアリペイ対応の店が多いのも、アリペイを使いたい中国人が大挙やって来るので対応せざるを得ないというのが実情だろう。
巨大企業となり応援されるよりも、批判の目で見られることが多くなったアリババグループ。批判に対して誠実に対応したとしても、それでも疑い深い目で見る人たちがいるのはしんどそうだが巨大企業の宿命だろう。
彼は「ぼくが学校で触れられるのは本に書かれていることだけです。だから、本に書かれていることが本当かどうか、社会に出て試してみたいんですよ。まるまる10年を使って会社を立ち上げて、それからまた学校に戻ってきて、自分が試してきたことを学生に伝えたいんです」と言った。
p22
この言葉は大学を辞職した際にジャック・マーが残した言葉だとされているが、先日の引退後に本当に教師に戻ると言っていて、改めてすごい人だなと感服してしまった。大金持ちになった後でも当初の予定通りに行動できるなんてなかなかできることではない。
その他、武侠小説の世界を取り入れている会社の文化も面白かった。この本は中国で出版された本の翻訳なのだが、登場する中国の人物やIT企業の説明などを付け加えてくれていたら嬉しかった。中国のIT事情に詳しくないので少し手こずった。
著者
王利芬/李翔
Alibaba アリババの野望 世界最大級の「ITの巨人」ジャック・マーの見る未来 (角川ebook nf) (角川ebook nf)
- 作者: 王利芬,李翔
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
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登場する作品
秘曲 笑傲江湖〈1〉殺戮の序曲 金庸武侠小説集 (徳間文庫)