★★★★☆
あらすじ
夜の街を散歩していた青年は、泣き濡れる一人の少女と出会う(白夜)。他全4編の短編集。
感想
表題作「白夜」は夢想ばかりしている青年とある少女との数日間の恋物語。恋が上手くいかず落胆している少女に恋をしてしまっている時点で最初から雲行きはあやしいのだが、自分が恋した女性が落ち込む姿は見たくないと応援してしまうところが、恋する男の悲しさだ。彼女の恋が実るように協力し励ます。
この自らの恋の成就からは遠ざかる矛盾した行動をしていると、どこからか黒い気持ちがむくむくと湧き上がりそうだが、ジレンマに対する苦悩や妄想からくる嫉妬といった恋愛にありがちな煩悶はあるものの、仄暗い感情は全く隆起しないので健康的だ。男女ともに恋に恋をしているような幼さがあり、恋愛に対して純真で清潔な態度。
少女の主人公に対する行動は、保険的なものを感じてしまうのだが、きっとそれは汚れた心の持ち主の発想なのだろう。ラストは予想通りというか、ハッピーエンドではないのだが、主人公の自己肯定感や前向きさに爽やかさを感じてしまう。
もう一つの表題作「おかしな人間の夢」は、自殺を図る男が見た夢の話。この短編という形式で、壮大な人類の物語を描いて見せるあたり、さすがドストエフスキー、と言いたくなる。
奴隷制度が現れ、自発的に奴隷になる者さえ登場した。連中はさらに弱い者を抑圧する際、手助けしてもらうためだけに、進んで最強の者に屈服したのだ。
p200
理想的な世界が崩壊していく姿を描いた中で出てくる文章。短編だと杓子定規な描写に終始してしまいそうなところに、鋭い言葉を入れてくる。どうせ奴隷になるなら出来るだけ身分の高い奴隷になりたいと、さっさと白旗上げる人いるな。巨大長編を読み終えた様な満足感があった。
その他の二つの短編はおとぎ話や童話のようで悪くない。ドストエフスキーの長編小説はいくつか読んだが、ところどころに難解な箇所があって、それが積み重なっていき最終的には良く分からない、という印象になることが多かった。しかし、短編だと積み重なることがなく、そもそも難解な箇所も少なくて、読みやすく面白かった。ドストエフスキーの名作と呼ばれている長編小説を読んでみて難解に感じた人や、なかなか手を出せない人は、彼の短編小説を読んでみるのがいいのかもしれない。
著者
登場する作品
マイアベーア:歌劇「悪魔のロベール」(イタリア国際管/パルンボ)
ロッシーニ 歌劇「セヴィリアの理髪師」チューリヒ歌劇場2001(リイシュー) [DVD]
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