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「関西電力「反原発町長」暗殺指令」 2011

関西電力「反原発町長」暗殺指令

★★★☆☆

 

内容

 福井県の高浜原発のある町で起きていた異常な出来事。

 

感想

  タイトルそのままなのだが、関西電力のある人物が事あるごとに対立していた高浜町長の暗殺を画策していた、という話。巨大企業の人間がそんなことをしていたというのが事実なら、衝撃的な話なのだろうが、正直、そんなに驚かなかったというのが素直な感想。

 

 最近の関電の金品受領問題や、会社は違うが東日本大震災の時やその後の東電の対応などを見ていたら、この業界はまともじゃないのだろうなと思ってしまっている自分がいる。裏で絶対悪いことしてるし、暗殺指令ぐらい出すだろうな、と「知ってた」と言いたくなるくらい、冷ややかに見てしまっている。

 

 

 ちなみに金品受領問題の中心人物だった元助役は、この本の中にも「エムさん」として言及されている。

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 ただ、犬を使った警備会社を立ち上げるところから話が始まるのが意外だった。そもそもどういう意図があったのか不明。大企業の中の人の単なる気まぐれな思い付きだったのか。しかも、それをなんの経験もない知り合いにやらせるなんて、巨大企業のやることとは思えない。ガバナンスが効いてないのだろうなということを窺わせる。

 

 そうやっていろんな人に仕事を与え金を渡すことで、恩を売り、言うことを聞かせようとしているのかもしれない。普通の企業なら別にそれでもいいような気もするが、税金が大量に投入され、困れば電気料金を上げるだけの、潰れる心配のないインフラ企業がやっている事に、たちの悪さを感じてしまう。

 

 そうやって警備犬を使った会社をつくらせて、恩を売った人たちに町長暗殺を命じたということなのだが、関電ともなればお抱えの反社集団の一つや二つあるのかと思っていたので、逆に意外だった。じゃあ日常的に反社会的行為はしてないのかと、好感を持ってしまうくらい。

 

 本書の中では、暗殺の対象とされた町長と面談もしているのだが、その中で印象的だったのは、首謀者たちに「あいつは共産党だ」と噂を流されたというくだり。しかし「共産党」が悪口になると思っている人というのは、なんだか田舎臭く感じるのはなぜだろう。そんなこと言われても「そうですよ」か「いや違いますよ」と返すだけだと思うのだが、そこに何か差別的なものを感じているのだろうか。その発送が古臭い。思えば、関電も巨大企業ではあるが、中身は古い体質の田舎臭さを感じさせる部分がある。

 

 この本の中で一番嫌な気分になるのは、著者が取材を終えて雑誌で記事を発表したあとの話。関電は肯定も否定もせずただ黙殺するだけで、他のメディアは追随するでもなく静観している。そして、何も起きないのかと思っていたら、告発者に対して突然動き出す検察と、それに呼応するかのように粛々と有罪にする司法。まるで出来レースかのような展開。この三権どころか、第4の権力すらもグルで、何一つ機能していない実態の方が怖い。

 

 この状況をどうしたら打破できるのかと思ってしまうが、そもそも記事を発表した時の世間の反応が薄かったというのも大きいだろう。自分もそうだったが「知ってた」みたいな冷めたリアクションではなくて、まずは世間が声を上げることが大事なのかもしれない。

 

 それから、地方を舞台にしているので、取材した人たちは方言を喋るのだが、話し言葉の方言に対して、すべて律義にカッコでくくって標準語に直しているのが、くどいような、面白いような、変な空気になってしまっていて気になった。

 

著者

齊藤真 

 

関西電力「反原発町長」暗殺指令

関西電力「反原発町長」暗殺指令

  • 作者:斉藤 真
  • 発売日: 2011/12/17
  • メディア: 単行本
 

 

 

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