★★☆☆☆
あらすじ
社会インフラとなっていた医療用AIが暴走をはじめ、それを実行したテロ犯との濡れ衣を着せられてしまった開発者は、逃亡を図る。
大沢たかお主演、賀来賢人、広瀬アリス、岩田剛典ら出演。入江悠監督。131分。
感想
AIを暴走させたとしてテロリストの疑いをかけられた開発者が主人公だ。逃亡して、冤罪を晴らし、閉じ込められた娘を助けようとする。
いわゆる逃亡犯ものだが、特に何をするわけでもなく、ただ逃げているだけなのが辛い。それが一時間ほども続く。しかも追手が迫って絶体絶命になると、なんとなくふわっと窮地を脱出してしまう。そこは醍醐味なのだから、もっと詳しくスリリングに描いて欲しかった。
そしてこの間もAIは暴走し、社会は大混乱している。ただ医療系AIなので病院や医療機器を装着している人が影響を受けるのは分かるが、なぜ停電したり信号が止まったりするのかは不明だ。そんな事態なのに新総理がのん気に組閣していたりもする。そして大混乱と言いながら、警察のシステムが何の問題もなく順調に稼働しているのも不思議だ。
後半になると主人公の反撃が始まる。前半もただ逃げていたわけではなかったことが判明するのだが、見せ方が悪く、たいして爽快感はない。そして真犯人を突き止め、AIの暴走を止める。だが「俺じゃない」とシラを切っておきながら自白してしまう犯人の間抜けぶりや、鏡を使ってAIを止めようとする一連の行動はコントみたいで、これがクライマックス?と失笑してしまった。
他にも、名刺一枚で存在も不確かなシステムをどうやってハックするの?など、ツッコミどころはたくさんある。だが、高齢化社会に監視社会、地方の衰退に国家財政の悪化による弱者切り捨てなど、様々な社会問題がある中で何かを訴えようとしているのは伝わってくる。それなりの切実さはあって、思ってたよりも悪い印象はない。
また、いすゞのビークロスなど、個性的で変な車を登場させて近未来感を出そうとしているのも面白い。
だが冷静に考えてみると、タイトルにあるような「AI崩壊」はまったく起きていない。単純にハッキングされて乗っ取られ、新たな管理者になった犯人の命令に従っているだけだ。命令している犯人ですら予期せぬことを勝手にやり始め、制御不能になってこそ崩壊で、そこに恐怖を感じるのに、そんなことは起きなかった。身内を殺し始めるとか、犯人が取り乱すようなことをして欲しかった。
それから犯人が最後にAIに関するしょうもない警句を弄していたが、すべてお前が命令しただけではないか、と思ってしまった。「決して許されない人間の命の選別を、AIが始めるかもしれない」という危惧も、すでにそういうことを平気で公言する人が世の中にいる以上、もはやAIは関係ない。それを人間が実行に移すかどうかの問題になっている。
成田悠輔氏の「高齢者の『集団自決』」発言とひろゆき氏の嘲笑から浮かび上がる差別と排除の思想 | AERA DIGITAL(アエラデジタル)
ロボットの反乱を止められるか?という昔からよくあるテーマの延長線上にある物語なのに、実はその前提にすら立てていない映画だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 入江悠
出演
賀来賢人/広瀬アリス/岩田剛典/髙嶋政宏/芦名星/玉城ティナ/余貴美子/松嶋菜々子/酒向芳/野間口徹/マギー/黒田大輔/毎熊克哉/蛍雪次朗