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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「赤い魚の夫婦」 2013

赤い魚の夫婦

★★★★☆

 

あらすじ

 赤い魚のペアを飼い始めた出産間近の夫婦を描いた表題作など、5つの作品を収めた短編集。メキシコ文学。

 

感想

 表題作をはじめ、すべての短編で魚や猫、蛇といった生き物が登場し、登場人物たちと生き物の姿がどこか重なるように描かれていく。そんな中で印象的だったのは、2番目に収められた短編「ゴミ箱の中の戦争」だ。登場するのはゴキブリで、ただ存在するだけで駆除されようとするゴキブリと、親戚の家に預けられ居心地の悪い思いをしている主人公の少年や、存在感を消してひっそりと生きている家政婦の年老いた母親の姿を重ねている。

 

内戦の被害者を見るような好奇の目でこれまでぼくがながめてきた、離婚家庭の子どもがしているように。

p51

 

 ゴキブリで文学、というのは変だがそこまで驚く事ではない。すごかったのは必死にゴキブリを駆除しようとする一家が最終的に編み出した方法だ。気の弱い人は卒倒してしまうかもしれない。ただ彼らはゴキブリに対して日本人のように悪い意味で特別視をしているようには感じられなかったので、単なる文化の違いなのかもしれない。でも異次元に思える展開過ぎて、SF小説というかホラー小説というか、そんなショートショートを読んでいるような気分になってしまった。

 

 とはいえ、この短編に関しては単なる文化の違いのせいで別の感想を抱いたが、基本的には正統派の短編が並んでいるのだろうと思いながらさらに本を読み進めた。だが、その後の短編「菌類」でも、なかなかのヤバい展開が見られて、やはりラテンアメリカ文学はひとくせ違うなと思い知らされた。

 

 

 その他の短編も、現代を舞台に登場人物たちと生き物を並べて描くという、同じような構成をとりながら、それぞれが恋愛小説だったり幻想文学だったり、それから怪奇小説だったりと、バラエティに富んだどれも趣の違う作品に仕上がっている。そしてどの短編も心地よい余韻を残して味わい深く、ページ数の少ない薄い本でありながらも満足感を感じられる短編集となっている。

 

著者

グアダルーペ・ネッテル

 

 

 

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