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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「移動祝祭日」 1964

移動祝祭日(新潮文庫)

★★★★☆

 

内容

  文豪としての地位を確立していた晩年のアーネスト・ヘミングウェイが、まだ駆け出しだったパリ時代を回想する。

 

感想

 まだ名もなき文学を志す一青年だったころのヘミングウェイのパリ時代が描かれる。若い頃のヘミングウェイの文学にかける情熱がひしひしと伝わってきて、胸が熱くなる。

 

創作の井戸をからからに涸れさせず、まだ井戸の底に水が残っている段階でいったん切り上げて、夜のあいだにまた泉から注ぐ水で井戸が満たされるようにする―—―それが最善の策だということに私はすでに気づいていたのだ。 

p42

 

 ただなんとなくパリにいるのではなく、毎日コツコツと文章を書き続け、どうすればよい小説が書けるのか試行錯誤を繰り返し、精進している。目標を達成するためにはこれくらい真摯に取り組まないと駄目だよなと、身が引き締まる思い。モチベーションが上がる。

 

 そして、そんな金もなく将来も見えないヘミングウェイを支える奥さんが素敵だ。金がなくてもそれを苦にするでもなく、ただ良い面だけを見ようとする。手持ちのカードで人生を楽しもうとする姿勢は、ヘミングウェイにとっては心強かったはずだ。彼女だったから頑張れたのかもしれない。それだけに、その後二人が別れてしまったというのは寂しい。成功して苦労時代を知る奥さんと別れるというのは、よくある話ではあるのだが。

 

 

 そんな二人が過ごしたパリ。そこでヘミングウェイが交流した人々の多彩さには驚かされる。「グレート・ギャッツビー」のF・スコット・フィッツジェラルドや「ユリシーズ」のジェイムズ・ジョイス、その他にもたくさんの芸術家たちが登場する。この時代(1920年代)の世界的な文化人は皆パリにいたのでは、と思ってしまうほど。

 

 こうやって世界各地からやってきた才能あふれる人々が交流することで、ますます文化が栄えていったのだろう。多様性というのは大事だ。志のある若者たちがパリを目指したのも理解できる。この当時のパリも登場するウディ・アレンの映画「ミッドナイト・イン・パリ」をもう一度見直したくなった。

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 今だとこの時代のパリ的な役割を果たしている都市はどこになるのだろうか。ネットの普及でわざわざ出かけなくてもいろんな人に会えるが、やはり直接会って交流することの重要性というものはあるような気がする。アポイントを取って目的をもって会うのではなく、街のどこかでたまたま出会って何気ない会話を交わすというような体験から新しい何かが生まれるかもしれない。才能ある人たちの良い面悪い面を見ることで学ぶこともあるだろう。

 

 数々のエピソードの中では、フィッツジェラルドとのエピソードが印象的だった。まだ無名だったヘミングウェイとすでに成功し有名人となっていたフィッツジェラルド。そんな彼らが二人きりでドライブ旅行をしたことがあるというのは、なかなか凄いことじゃないだろうか。着実に地位を築いていくヘミングウェイと落ちぶれていくフィッツジェラルドというその後の展開も考えると、なかなかに味わい深いエピソードだ。

 

 この本はヘミングウェイが無名だった頃に書いたものではなく、文豪として名を成した後に書いたものであることには留意しなければいけない。人の思い出は都合よく書き換えられるものだ。自分を良く見せたいとか、作家としてのイメージを保ちたいだとか様々なバイアスがかかっているはず。当時交流していた人たちでも、その後に仲たがいした人たちの事は悪く書かれているようだ。

 

 さらにこの本は、ヘミングウェイの意図が反映されているわけではなく、彼の死後に奥さんによってまとめられ、出版されたというのがややこしい。自分の知らない夫の若い頃の話に対する複雑な思いがあったかもしれないし、彼女は彼女で夫のイメージを守りたいという気持ちがあったかもしれない。ここにもバイアスがかかっている可能性がある。

 

 それはそれで物語にどう影響を与えているのか考えながら読むのも面白いとは思うが、シンプルに夢を追っていた時代の青春の思い出話として楽しめる。

 

著者

アーネスト・ヘミングウェイ 

 

移動祝祭日(新潮文庫)

移動祝祭日(新潮文庫)

 

 

 

登場する作品

  「われらの時代・男だけの世界: ヘミングウェイ全短編 (新潮文庫)」所収「北ミシガンで」「ぼくの父」「季節はずれ」

三人の女 (Mag・novels)」所収「メランクサ」

The Making of the Americans (English Edition)(アメリカ人の成り立ち)」

ロレンス短篇集 (ちくま文庫)」所収「プロシア士官」

息子と恋人 (ちくま文庫)

The White Peacock (English Edition)(白孔雀)」

恋する女たち〈上巻〉 (1964年) (角川文庫)

下宿人 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 199)

13の秘密 第1号水門 (創元推理文庫)」所収「第1号水門」

La Maison Du Canal (Presses-Pocket)(運河の家)」

黒い笑い (1964年) (アメリカの文学)(暗い笑い)」

猟人日記 (角川文庫)

戦争と平和1 (光文社古典新訳文庫)

「賭博者・その他の短編」 ドストエフスキー

「年間短編傑作選(1923)」 エドワード・オブライアン 

荒地 (岩波文庫)

ユリシーズ 文庫版 全4巻完結セット (集英社文庫ヘリテージ)

パルムの僧院〈上〉 (岩波文庫)

Mazeppa, A Poem. (Lord Byron Classics) (English Edition)(マゼッパ)」

罪と罰 1 (光文社古典新訳文庫)

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日はまた昇る〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

Out of Africa(アフリカの日々)」

「改訂版水路測量局地中海航海指針」

「ブラウン航海暦」

 

 

登場する人物

F・スコット・フィッツジェラルド

 

 

この作品が登場する作品

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