★★★☆☆
あらすじ
妻を失った作家の男は、兄の仕事を手伝うために日本を引き払い、息子を連れて韓国にやってくる。
池松壮亮、オダギリジョーら出演、石井裕也監督。オール韓国ロケ作品。128分。
感想
日本を引き払って韓国にやってきた男が、売れない歌手の女と出会う物語だ。そして兄と息子、女の兄と妹を加えた6人の奇妙なロードムービーとなっていく。
韓国語を話せる主人公の兄が、この6人の日韓混合グループの間を取り持つ役割を担っている。他のメンバーたちは母国語しか話さず、最初はなんとなくの雰囲気で互いにコミュニケーションを取っていた。中盤くらいから共通言語として英語を使い始めるのだが、なんで最初からそうしなかったのだ?とツッコみたくなった。
言葉が通じなくても、どうしても話をしたければ身振りや手ぶり、あらゆる手段を用いて何とかしようとするものだ。その時、両者が片言ではあるが知っている英語を使おうとするのは自然の流れだろう。だが途中までその気配が全くなかった。
最初は韓国の兄妹側に疑心があったので、そこまでモチベーションがなかったということなのかもしれないが、それだと行動をわざわざ共にする説明がつかない。お金を出してくれるというのも、コミュニケーションを図ろうとする立派な動機になるはずだ。
この映画は万事がこの調子で、都合よく物語の素材を出し入れしている印象がある。女の兄妹間にあるわだかまりや主人公の妻を失った悲しみなどが、タイミングを見計らって唐突に物語の中心に躍り出てくる。全体的にぶつ切りのエピソードが続く感覚があり、自然な流れが出来ていない。
それまでほとんど存在感のなかった主人公の息子が、急に前面に押し出される終盤のシークエンスなどはいかにもだった。主人公と女の恋愛についてもその機微をしっかりと描いているとはいい難く、あまりピンと来ないところがあった。
韓国の異国情緒や日韓の兄弟同士のぎこちないやり取りなど、それぞれのシーン自体はそれなりに面白い。皆でただガツガツと食事するラストシーンもグッとくるが、エピソードを積み重ねることで生まれるはずの映画として大きなうねりは感じられなかった。点と点がうまくつながっていかない映画だ。
それから、6人の中でいちばんお気楽そうだった主人公の兄を演じるオダギリジョーが、途中からリリー・フランキーに見えてきて困った。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 石井裕也
出演 池松壮亮/チェ・ヒソ/オダギリジョー/芹澤興人