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「ひとよ」 2019

ひとよ

★★★★☆

 

あらすじ

 虐待を繰り返す夫を殺して服役し、15年ぶりに戻ってきた女と、それを迎える子供たち。

 

感想

 冒頭、母親役の田中裕子がいきなり放心状態で現れるのはインパクトがあった。彼女のタクシー運転手姿や若作りした顔、その前のベタとも思えるくらい分かりやすい子供たちの虐待による負傷の跡など、なんとなくコントぽい雰囲気があって思わず笑いそうになってしまった。どこからともなく志村けんが出てきそうな感じがあった。当事者たちには悲劇でも、第三者から見れば滑稽に見えてしまうことはよくある。

 

 そしてそれから15年後、服役していた母親が戻って来て本格的に物語は動き出す。最初、子供たちは日常的な父親の虐待から身を挺して救ってくれた母親を手放しで歓迎するのかと思っていたので、戸惑いを見せる彼らの反応が意外だった。だが冷静に考えてみれば当然で、彼らは虐待からは逃れられたが、その代わりに殺人犯の子供として世間の冷たい仕打ちを受け、思うように生きて来られなかった。母親の帰還を素直に喜べないのは当たり前だ。

 

 そんな複雑な思いを抱える子供たちに対し、母親が事件直後に皆に語った言葉をどんなに責められても頑なに撤回しない姿が印象的だった。彼らはあの事件を彼らなりに定義づけ、その後はそれを基にして生きてきた。いま彼女があの一夜に語った言葉を覆してしまうと、それまで生き抜いてきた子供たちの根底にあったものをグラグラと揺るがすことになってしまう。もはや過去は変えられないのだから、今さら余計な事をする必要はない。

 

 

 そんなわだかまりを抱えながらも、それでも家族は家族だ。三人兄妹の中で最も冷めた態度を示していた佐藤健演じる次男が、終盤の母親の危機で見せた必死な姿には目頭が熱くなった。それ以前に、いい年齢になった兄妹三人が何するでもなくただ一緒に佇んでいる姿を見るだけでもグッとくるものがある。

 

 分かりやすい描写やセリフが多すぎるかなという気がしないでもないが、色々と考えさせられる映画だった。こんな事になるのだったら父親を殺さなかった方が良かったのかと考えてしまうが、だとすると子供たちはずっと虐待を受け続けてしまうし、かといってやっぱり殺してよかったのかと言えば、その前にそもそも人を殺してはいけないだろうというのがある。じゃあ虐待を受けないようにすればよかった、となるがそんなのは無理で、どこまで遡ったところで正解は見えてこない。それならやっぱりあの一夜を経た今の現実を受け入れて、前向きに生きていくしかないのだろう。

 

スタッフ/キャスト

監督 白石和彌

 

脚本 髙橋泉

 

出演 佐藤健/鈴木亮平/松岡茉優/音尾琢真/筒井真理子/浅利陽介/韓英恵/MEGUMI/大悟(千鳥)/佐々木蔵之介/田中裕子

 

音楽    大間々昂

 

ひとよ

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