★★★☆☆
内容
日本人にはなじみの薄い国、アイスランドを旅する。
感想
個人的にアイスランドは、「世界しあわせ紀行」の中で幸福度ランキングが高い国の一つとしてその暮らしぶりが紹介されていたのを読んで興味があった。ただ、日本人にはなじみのない国なので、アイスランドについての本といえば、旅のガイドブックばかり。そういった意味では、この本はアイスランドの自然の美しさだけでなく、個人的興味のある国民の生活ぶりにも触れられていて良かった。
ただ、著者の旅の経験値が高すぎて、アイスランドという珍しい国にやってきました、という語り口にはなっていない。おそらく普通の人にとっては珍しい光景や目を引くような風景も著者にとってはそれほど驚きではなくなっている。比較としてほとんどの人があまり行くことのない世界中の辺境の地が次から次と出てきて、ちょっと感覚が違う。そこまで詳しく現地の事が書かれていないので物足りなさが残る。写真が多めで、文章は少なめの構成なのも影響しているかもしれないが。
さらには、スノーモービルで登山したり、火口の中に入ったりと、旅のハイライトになりそうな体験も結構あっさりとした記述で済ませている。本人にとってはすごい事をしていると感じていないのかもしれない。もはややっていることはほぼ冒険家だ。
そんな中で印象深かったのは、エスキモーが生肉を食べたり、生血を飲むのは何も好き好んでやっているわけではなく、単純に燃やすものがないので加熱調理することが出来ないからだ、という話。一定の緯度や高度を超えると植物が育たない、森林限界という境界がある。加熱調理なんてそこらにあるものを燃やせばいいじゃんと思っていたが、燃やすような草木がない世界なんて想像したことがなかった。
そして、アイスランドや諸外国と比較して、著者が日本をディスる文章が多いのも気になるが、その気持ちはすごく良く分かる。もちろん著者ほどの外国経験はないが、ちょっと海外に行っただけでも日本に対して色々感じることは出てくる。個人的に気になるのは、日本に戻った時に感じる人々の無表情ぶり。若者ですらも何も希望を持っていないような死んだ顔で歩いている。きっと自分も同じようにそんな顔をして歩いているのだろうが。
他人がこういうことを言うとそんなはずないと怒ったり、頑なに拒絶したくなるが、本人がそう感じているのだから、もうそれは一つの真実だ。そういう事に耳をふさいで何もしないで閉じこもったり、どこかで仕入れた不確かな知識を振りかざすよりも、それが本当かどうか、自分も確かめに出かけていくような気概を持っていたいものだ。
著者
椎名誠
登場する作品