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「日蝕・一月物語」 1998

日蝕・一月物語 (新潮文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 「月蝕」。舞台は中世ヨーロッパ。ある本を求めて旅に出た神学僧は、途中である村に住む錬金術師のもとをを訪ねる。芥川受賞作。

 

 「一月物語」。熊野を旅する青年は、蛇に噛まれて山中の禅堂で療養していたが、そこで不思議な体験をする。 

 

感想

 「日蝕」は、古めかしい文章、擬古文調というらしいが、で語られていく物語。だから難解で読みにくいかと言われたらそんな事はなく、調子を掴めば、単純にただ読みこなせていること自体が楽しくなってくるような感覚はある。文学している感というか。この凝った文章と博識な内容の小説を20代前半の若さで書いた著者には、素直にすごいと感心してしまう。当時話題になったのも頷ける。

 

 物語には錬金術師や両性具有、魔女狩りや異端などといったものが登場し、おどろしい雰囲気に満ちているのだが、、その雰囲気の演出にこの古めかしい文体がかなり貢献しているように感じる。正直内容は完全に理解したとは言えないが、読み応えのある内容。意外とアニメ化したら「エヴァンゲリオン」的な感じになって、面白くなりそうだ。

 

 

 美醜や善悪、正邪といったものは簡単に分けられるものではなく、両性具有のように一つのものが内包している場合も多い。それにそれらは逆に互いに引き寄せ合って、一つになってしまおうとすることもある。そのような事が重ねて起きた時、あり得ない事象が発生したとしても不思議ではない。

 

 「一月物語」は、「月蝕」とはまた文体が違っている事に驚く。こちらは明治文学風というか。こんな風に見事に文体を変えられてしまうと、ちょっとイタコというか、モノマネ芸ぽさも感じてしまった。こちらはどこかの村に残る伝説話のようで、宿の女将が長々と畳みかけるように一人語りするときの疾走感が良かった。

 

著者

平野啓一郎 

 

日蝕・一月物語 (新潮文庫)

日蝕・一月物語 (新潮文庫)

 

日蝕 (小説) - Wikipedia

 

 

登場する作品

「ヘルメス選集」 

「聖トマス神学の擁護」 カプレオルス

自然学 (新版 アリストテレス全集 第4巻)

アリストテレス全集4─天体論・生成消滅論」所収 「生成消滅論」

分析論前書 分析論後書 (新版 アリストテレス全集 第2巻)」所収 「分析論後書」

「アリストテレス範疇論入門」 ポルフュリオス

「自然の鏡」 ヴァンサン・ド・ボオヴェ

テアイテトス (岩波文庫)(ティマイオス)」

「大著作」 ロジャア・ベイコン

「錬金術の鏡」 ロジャア・ベイコン

「聖典」 ライムンドゥス・ルルス

象形寓意図の書・賢者の術概要・望みの望み (ヘルメス叢書)」所収 「象形寓意図の書」

「錬金術大全」 ゲエベル

神学大全I (中公クラシックス)

形而上学叙説―有と本質とに就いて (岩波文庫)(形而上学註解)」

「異端審問の実務」 ベルナアル・ギイ

「魔女の槌」 ハインリヒ・クラアメル/ヤアコブ・シュプレンゲル

旧約聖書 出エジプト記 (岩波文庫 青 801-2)

「カルデア人の神託」

太平記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫)

「楠公三代記」

森鴎外全集〈10〉即興詩人 (ちくま文庫)

チャイルド・ハロルドの巡礼―物語詩

李長吉歌詩集 上 (岩波文庫 赤 6-1)

 

 

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