★★★★☆
内容
ユダヤ人迫害から逃れるために、隠れ家にて潜伏生活を送る少女の日記。
感想
見つかると死に直結してしまうような状況の中で、息をするのも憚れるほど、ひっそりと人目を忍んで肩寄せ合って暮らしていたのかと思ったが、意外にもそうではなかった。本を読んだり勉強したり、皆で食卓を囲んで冗談を言ったり、プレゼントを贈り合ったり、喧嘩をしたりと、なかなか賑やかな生活を送っている。国民性もあるのだろうが、そう毎日、ただただ恐怖に怯えながら何年も生活なんてできないのだろう。
そうは言いながらも密室での集団生活。皆どこかでストレスを抱え、この中で一番年少のアンネに、そのストレスをぶつけている様子が伝わってくる。
アンネの日記の内容は、まさに多感な十代の少女の日記といった趣だ。母親への反発や大人たちへの反感、性への関心など、どこにでもいるような少女の気持ちが綴られている。だけどもこの年頃にしては色々な物事の見方が鋭く、しっかりしている。彼女自身の素質もあったのだろうが、この異常な生活の中で自分自身を見つめる時間が充分あったという事もあるのだろう。そして、常に明るい希望を抱き続けているのが印象に残る。
自分たちの身の危険も顧みず彼らを匿った人たちにも、まだスペースがあるからとさらに一人を迎え入れた彼らにも、素直に頭が下がる思いだ。戦争中の皆が苦しい中でもこういう人たちがいるという事に、世間はそんなに捨てたものじゃないなと思える。
次第にある一人の少女の物語を読んでいるような気になるが、突然話が終わってしまう事で、これは現実に合った本当の話なんだと実感させられる。この日記が途切れた日に彼女は連行されていった。きっと彼女はそんなことが起きるとは思わず、また同じような一日が訪れると思いながらノートを閉じたのだろう。そう考えると切ない。
歴史の教科書の年表では2年間なんてあっという間だ、と思ってしまうが、こうして日記を読んでいるとその月日の長さを感じる。終戦まであとわずかだと思いながら読んでいても、なかなか日にちが進んでいかない。どこかでアンネたちが助かって欲しいと思いながら読んでいた身にはそれも結構つらかった。
著者
アンネ・フランク
訳 深町真理子
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