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「結婚の奴」 2019

結婚の奴

★★★★☆

 

内容

 ゲイの男性と結婚生活のような暮らしを始めた著者。

 

感想

 契約結婚ではないが、なんとなくきっちりと条件を詰めての結婚的生活を始めたのかと思ったら、そういうわけでもなかった。ちゃんとデート的な事をして、結婚を前提にお願いします的な言葉を交わし、半同棲的な事をしてからの結婚的生活。こうなってくるとほとんど普通の結婚と変わらない。

 

 しかも元々、仲の良い友人というわけでもなく、気が合いそうだと判断したほぼ会った事もないような知人に自ら声をかけ、積極的に事を運んでいったというのがすごい。既成事実を積み上げて、もうやらざるを得ない状況に自らを追い込むことで、結婚的生活実現への推進力にしている。この感じもちょっと婚活ぽかったし、時々互いの結婚的生活の考え方にズレがあることに気付いて、戸惑ってしまう所まで普通の結婚生活そっくりだ。

 

 

 もっとドライな関係か、もしくはルームシェア的な関係かと思っていたがそうではなく、本当に結婚のようなことをしたかったという事なのか。しかし、結婚もそうだが、進学、就職、子育てなど、いわゆる社会に敷かれたレールを上手く走れないと、生きにくいのは事実だ。

 

 何の疑問もなく自然とレールの上を走れる人からすれば、毎度毎度立ち止まって逡巡している人の気持ちは分からない。それが普通で当然だと思っているから、なんの悪意もなく自然と、就職しないの?結婚はいつするの?なんて聞いてくる。意識的にレールを外れた生き方をしてやると決意しているのならまだしも、皆と同じ普通でいたいのにどうしてもそれが出来ない人は、そんな何気ない質問に毎回傷つくことになってしまう。

 

 自分も割と、迷いなくスイスイとレールの上を走っていく周囲の人間が不思議でしょうがなかった。そんな時に自分と同じような人を見つけると、勝手に仲間だと思って安心してしまうのだが、実は同じようでいて微妙に違うことに気が付いて、それはそれで傷ついたり、腹立たしく感じることもある。

 

 ただ、自分のここは普通じゃないよなと引け目を感じているような人でも、意外と別の部分では普通じゃない事を普通だと思って堂々としている事もあるような気がする。例えばこの本で言えば、ネットで知り合ったとんでもない人たちに会いに行ったり、初対面でキツいかもと思った男性と付き合ったり、自身のセックスを熱のこもらない平温で淡々と語れる著者はすごいなと思ってしまうが、きっと本人からしたら普通なのだろう。もしこの普通を誰かに押し付けたら、子供産まないの?みたいな感じで相手を傷つけてしまう事があるはずだ。

 

 そんな事を考えながら読んでいると、段々と「普通って何?」と分からなくなってくる。著者たちの恋愛感情のない結婚的生活も、きっと近所から見たらちょっと変わってるけどれっきとした普通の夫婦と思われているだろうし、世間の普通の夫婦たちだってその結婚生活を詳しく観察してみれば、皆同じではなくきっと千差万別で違うはずだ。

 

 そう考えると「普通」は、案外、懐が深いものなのかもしれない。普通じゃなくても、こうやって普通らしく振舞うのも有りなんだなと思わせてくれる。結婚に限らないが、なんでも無理やり合わせていくのではなく、自分に合ったスタイルを模索すればいい、という事だ。

 

著者

能町みね子 

 

結婚の奴

結婚の奴

 

 

 

登場する作品

四巨頭会談―男好きの男と女好きの女と女だった男と男だった女

ベリッシマ

光と私

あの娘が眠ってる

気分

Friends Again(Single Version) / フレンズ・アゲイン(シングル・ヴァージョン) (Remastered 2006)

世界一周ホモのたび (本当にあった笑える話)

神田川 (シングルバージョン)

女子をこじらせて

ときめかない日記 (幻冬舎文庫)

縁遠さん (コミックエッセイ)

東京を生きる

夫のちんぽが入らない (講談社文庫)

100万回生きたねこ (講談社の創作絵本)

 

 

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