★★★★★
あらすじ
幼い頃につらい思いをし、社会にうまく適合できない女。
感想
物語は主人公の幼少期から始まる。母親や姉から邪険な扱いを受け、周囲を窺いながらびくびくして生きる主人公。最初は母親の行き過ぎた愛情が歪んだ形となって表れてしまっているのかと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。これは辛いなと思っていた所に、今度は塾講師からのとんでもなく酷い仕打ち。この年齢でこのハードモードはしんどい。序盤は読んでいるだけで、どんどんと気分が沈んでいってしまう。
ところであまり本題とは関係がないが、最近、生徒の下着を教師が確認するという校則が酷いと話題になっていたが、教師の言い分の「生徒のため」という言葉は、性的虐待をするために幼児を誘い込む大人がかける言葉と全く同じだ。そう気づいてしまうと、そういう嗜好を持った教師が、自らの欲望を満たすためにそういう口実で始めたのだろうな、と穿った見方をしてしまう。その後は、ルールなので、決まりなので、の一点張りで、だれも明確な理由を説明できないまま続けられてきたのだろう。「生徒のため」と言えば、合理的な理由がいらなくなる風潮は何とかして欲しい所だ。
「下着は白」着替え時に先生が同席 「ブラック校則」女子中学生が投書|総合|神戸新聞NEXT
夫と私は、「ちゃんと洗脳してもらえなかった人」たちだった。洗脳されそびれた人は、「工場」から排除されないように演じ続けるしかない。
p138
幼少時の経験から、世間に疑問を感じ、うまく適合できずに生きることになった主人公。ただ、そんな世間に反発を覚えて抵抗するのではなく、早く洗脳されてしまいたいと思っているのが切ない。世の中は変だと思いながら、そう思う自分が間違っているのだと感じている。
こういう物語は、最終的には何とか世間との妥協点を見つけ、折り合いよくやっていけるようになりました、とか、最悪の場合だったら、絶望して自殺してしまいました、とかの着地点に向かっていくのだろう。そう思っていたら、どんどんととんでもない方向に向かっていく。こちらが勝手に設けていた越えちゃいけないラインを軽々と飛び越えていって、ドキドキしてしまうほどだ。
ラストはもう、頭おかしいと言ってしまってもいいような展開となる。だが、そうやって単純に切り捨てることが出来ない程、主人公の側に立っている自分に気付く。あんなにクレイジーに見えた主人公の夫も、いつの間にか普通に思えるようになっている。読んでいるだけで段々と体力奪われていくような小説だ。久々にヤバい本を読んでしまった。
著者
村田沙耶香