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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「ランサローテ島」 2000

ランサローテ島

★★★★☆

 

あらすじ

  スペインのランサローテ島に余暇を過ごすためにやって来た男は、現地で同じような観光客、ベルギー人の男と二人組のドイツ人女性と知り合う。

 

感想

 物語を通して、主人公が無気力で無関心なのが印象的だ。年齢のせいなのか、時代のせいなのか、それともその両方のせいなのか。バカンスの計画ですら期待や興奮は感じられず、惰性的に決めている。主人公自身の年齢や職業もはっきりと語られないのは、語った所で何になる?という主人公のあきらめの心情を代弁しているかのようだ。

 

 ランサローテ島での観光の様子が描かれており、小説の中ではあまり面白い場所ではないような書きぶりだが、少し調べてみるとそれなりの観光地ではあるようだ。ただ、それでもやっぱり、どちらかというと渋い観光地というような扱いのようだが。

 

 

 そんな中で現地ツアーに参加したり、レンタカーを借りてみたりと、なんとか退屈にならないように行動する主人公。しかしそれも、観光に来たらそうするものだ、という慣習をなぞっているだけのような淡々とした動き。

 

 唯一、他の旅行者に声をかけてみるという旅の習いにしたがって知り合ったレズのドイツ人カップルとイチャついた時は珍しく幸せそうではあった。ただそれも、それを拒否したベルギー人のように、年老いてしまえばそれに奮い立つこともなくなってしまうだろうと達観している。

 

 とはいいながら主人公は漠然と、その後のベルギー人が取った行動のように、何か人生を賭けてみたくなるようなものがどこかにあるのかもしれない、とは考えているのだろう。火山の爆発によって破壊しつくされ一旦ゼロになったランサローテ島のように、これまでの人生がご破算になるような出来事が起きたら、それが幸運だと思ってしまうような人生。

 

 主人公は帰国後、ある事件の渦中に巻き込まれたベルギー人の行く末が気になりながらも、またもや惰性でバカンスへと出かけていく。わずか60ページほどしかない短い小説で、主人公の次のバカンス先から考えると、著者の次作「プラットフォーム」の序章のようにも感じられる作品となっている。

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著者

ミシェル・ウエルベック

 

 

 

登場する作品

「連想で学ぶスペイン語」 グルーンバーグ/ジェイコブス

嘘をついた男

 

 

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