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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「波の塔」 1960

松本清張 波の塔

★★★★☆

 

あらすじ

 司法修習生で検事を目指す若い男は、たまたま知り合ったミステリアスな女と恋に落ちる。

 

感想

 理想に燃える若い検事と満たされない女の不倫の物語。二人の描写が今見るとベタなメロドラマ風で、思わず笑ってしまうようなシーンもある。そんな事もあって少し気楽な感じで見ていたのだが、実は複雑に入り組んだ話であることが段々と分かってくる。不倫相手の夫は、検事が担当する事件で調査している政治ブローカーの男だったり、旅先で知り合った女性の父親は、これまた調査中の役人だったりと、登場人物たちの意外な関係性が明らかになっていく。

 

 そんな中で不倫相手の夫である政治ブローカーは、妻の不審な行動に気づきその真相を調べ始める。ただこの夫自身は公然と浮気をしていて、それなのに妻が浮気しているかもとなったら急に気にするようになるなんて、ずいぶんと身勝手だなと思ってしまった。ただ彼女の不倫の証拠を掴んだことで彼女を責めたり怒ったりする様子はなかったので、まだましなのかもしれない。単なる確認や好奇心のために調べているようにも見えたが、人の弱みを握っていつか利用しようとする政治ブローカーらしい行動だともいえる。

 

 

 やがて捜査が進展し、検事は家宅捜査が行われた政治ブローカーの自宅で不倫相手と気まずい対面をすることになる。この時、二人があまりにも挙動不審な動きを見せるものだから、怪しすぎて可笑しかった。しかし、容疑者の妻と不倫しているなんて、バレたらヤバいのは分かりきった話なのに、検事はこの直後にも不倫相手と密会していて、なんてお気楽な正確なのだと呆れてしまった。それからよく考えてみれば政治ブローカーの男も、自分が逮捕されるかどうかの瀬戸際の時に、妻の不倫の調査をわざわざ現地まで出かけてやっていたわけなので、みんな呑気か!とツッコみたくなる。

 

 検事とその弱みを握った政治ブローカーが相対し、緊迫した取り調べシーンが始まるのかと期待していたのに、まったくそんなものは無く、かなりがっかりしてしまった。この事件に関しては関係者が皆、往生際が良く、簡単に白旗を上げてしまった印象だ。あっさりと片がつけられて、その後は不倫ロマンスの行く末に焦点が絞られる。二人に立ちはだかる障壁がほぼなくなったのでハッピーエンドになるのかと思いきや、しっとりとした結末でこれはこれで悪くなかった。

 

 予想どおりに話が進まない意外性のある展開が多く、色々とツッコみたくはなるのだが、でもそのツッコむのが楽しい、みたいな映画となっている。なんだかんだで面白かった。

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 ところでこの映画では、政治的圧力にもスキャンダルにも負けずにキッチリと検察が仕事をする様子を、さらっと当たり前のように描いているのだが、今映画でこんな風に描いたら違和感を覚えるはずだ。検察が当然のことを当然のようにやると信じていた時代もあったのだなと遠い目をしてしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督 中村登

 

原作 波の塔(上)

 

出演

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有馬稲子/南原宏治/桑野みゆき/岸田今日子/沢村貞子/西村晃/佐藤慶/高橋とよ

 

波の塔 - Wikipedia

 

 

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