★★★★☆
あらすじ
半地下のアパートに住む一家。息子がある金持ち家庭の家庭教師となったことをきっかけに、その家庭に入り込むことを画策する。
アカデミー賞作品賞。カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。
感想
貧しい暮らしをする一家が金持ち家庭に入り込んでいく過程は面白い。だが学力だったり、運転技術だったり、家事能力だったりが必要なわけで、単なる口八丁の詐欺でないのはすごいなと感心する。そんな高い能力があっても仕事にありつけない社会の矛盾を示唆しているのかもしれない。考えてみれば、本当の悪人であれば金持ち一家を乗っ取ったり資産を奪おうとするはずで、単純に職を得ようとするだけの彼らは善良と言えば善良だ。
順調に進んでいた作戦がつまづいてしまったのも、彼らの善良さによるものだった。職を奪って追い出した前任者など無視すればよかったのに、家の中に招き入れてしまった。ここから時間の流れは遅くなり、翌日の昼頃までの出来事がじっくりと描かれる。夜半のコミカルなドタバタ劇を経て、佳境へと向かっていく。
この映画は格差社会を描いているが、その断絶を描いた物語でもある。一家に狙われた金持ち家庭の人たちは決して強欲で恥知らずな人たちではない。使用人に怒鳴り散らす事など全くなく、むしろ丁重に扱うような道徳的で常識のある人たちだ。ただ貧しい人たちのことは見えていない。土砂降りの雨の中、居心地の良い大きな家で幸福に眠る彼らは、その汚れた雨水が貧しい人たちの家に流れ込んでいることを知らない。この一連の描写は、格差社会の問題点を象徴的に表現していて秀逸だった。
そんな金持ちの彼らが唯一、貧しい者たちの存在を感じるのはその「臭い」だけ。しかし臭いが気になると言われるのはつらい。どうすることも出来ず、越えられない壁のようなものを感じてしまう。金持ち一家が不在の束の間、貧しき一家は彼らの豪邸を我が物顔で満喫するのだが、それでもどこかに物悲しさが漂っていたのは印象的だった(しかし、この豪邸は建築としてとても素敵だった)。
コミカルさを交えつつ、先が読めないのでダレることなく展開していく物語だ。失望しないために「無計画」で生きようとしていた一家が、希望を持つために「計画」を立てたというのは、ある意味ではハッピーエンドだったと言えるのかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ポン・ジュノ
製作/出演(声) クァク・シネ
出演 ソン・ガンホ/イ・ソンギュン/チョ・ヨジョン/チェ・ウシク/パク・ソダム/チャン・ヘジン/チョン・ジソ/チョン・ヒョンジュン/イ・ジョンウン/パク・ミョンフン/パク・ソジュン