★★★★☆
あらすじ
ある日突然行方不明となった父親を探す少女は、父の名を騙って生活する逃亡中の連続殺人事件の指名手配犯と出会う。
感想
序盤は行方不明となった父親を探す少女の姿が描かれる。警察に捜索願を出したところで積極的に探してくれるわけでもなく、子どもが一人で暮らさなければならない状況にもかかわらず放置されたままで、公共機関に対する不信感が募る。担任の教師が仕方なくサポートしていたが、こういうしわ寄せが誰か個人に行かないようにするために公共サービスがあり、そのために税金を払っているはずなのにと腹立たしくなる。
やがて父親が、数日前に見かけたと言って懸賞金の話をしていた指名手配中の連続殺人犯と関わり、何らかの事件に巻き込まれたのではないかとの疑いが強まってくる。そこで時間は戻り、今度は殺人犯の事件発覚と逃亡中の様子が描かれていく。
犯人が起こした事件は「座間9人殺害事件」を想起させる。犯人が金目当てだったのは意外だったが、趣味をビジネスにしたということだろうか。自殺志望者たちが本心では死を望んでいなかったという話は興味深かった。そう話すことで相手をしてくれる誰かを探していたのかもしれない。志願者の横柄ぶりは、その独りよがりなわがままぶりを垣間見せていた。
逃亡する殺人犯が父親と出会ったところでさらに時間が遡る。今度は父親と難病に冒された妻の様子が描かれる。やさぐれた風貌をしていた父親が、かつては世間並みの中年男で、献身的に妻の介抱をしていたことが明らかになる。生きる希望を失った妻に苦悩しながらも懸命になだめる姿には胸を締め付けられた。
ただ、この妻を世話している間、娘が一切登場しないのは違和感があった。夫婦の話に絞って描きたかったのかもしれないがさすがに不自然だ。だがこの後の展開を考えると、この間、娘は一人閉じこもり、辛い思いをSNSで吐露していたことになるのかもしれない。
そして指名手配犯を深追いして事件に巻き込まれたと思われていた父親が、実は事件以前から犯人と知り合いで、さらにはその後も深く関わっていたことが分かってくる。意表を突かれる展開だった。
最初に描かれた父親を探す娘のシークエンスが繰り返され、実はその近くに本人がいたことが判明するシーンは面白かった。成長して大人になっていく娘の姿は、間近で見ていたいような、見たくないようなものなのだろう。
終盤でついに三人の物語がつながり、クライマックスへと向かう。犯罪映画なら痛快で、そのままエンディングを迎えてもいいくらいの結末だったが、そのままでは終わらずきっちりと善悪の清算をする。自分たちにも厳しいヒューマンな映画だった。
ラストの、別れの時が訪れたことを悟りながらも卓球のラリーを続ける親子の姿が印象的だったが、どんな時でもこうやってラリーを続けることが希望につながる。親子を演じる佐藤二朗と伊東蒼が良い演技を見せていた。二人が話す関西弁も物語にリアリティと説得力を与えている。
最初は父親を探す物語かと思っていたので、話があちこちに飛ぶ展開が解せなかったが、誰もが探し探され、求め求められていることが伝わってくる物語だった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 片山慎三
脚本 小寺和久/高田亮
出演 佐藤二朗/伊東蒼/清水尋也/森田望智/松岡依都美/成嶋瞳子/品川徹