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「ウンコな議論」 2005

ウンコな議論 (ちくま学芸文庫)

★★★★☆

 

内容

 日々様々な場所で繰り広げられている「ウンコな議論」。その中身について考察する。原題は「On Bullshit」。

 

感想

 まずこの本の邦題がよくないよなと思ってしまう。たとえ中身が頷けるものだったとしても、日常の会話の中でこの本の名前を言い出しにくい。それに「今日の会議、まさにウンコな議論だったよね」とも口にしづらい。その点、最近売れた本の「ブルシットジョブ」はそれをちゃんと分かっていた。これもタイトルが「ウンコな仕事」だったら人々がこんなにも話題にしなかったかもしれない。あまり売れなかったというこの本を他山の石にしたという事なのだろう。

 

 ただ、訳者が解説で弁明していたが、ネイティブの人たちがこの本のタイトルを見た時のインパクトを日本で再現するつもりだったら、「ウンコな議論」が正解なのは間違いない。著者は汚い言葉のタイトルをつけたかっただけのはずなので、ちゃんと意図を汲んだことになる。ただ、それに対する反応がネイティブと日本では違ったという事だろう。面白がって手に取るか、拒絶してしまうか。著者の意図を汲みつつ日本で受け入れられる表現も考えなければいけないなんて、翻訳の仕事も大変だ。

 

 本書は50ページしかない本文に、訳者による解説50ページが加わってようやく100ページを超えるという薄い単行本。だからあっさりと読了できるかと思ったのだが、道徳哲学者による文章という事でなかなか手強く、読み応えのある内容だった。それとは別に、そもそも「ウンコな議論」という言葉自体が、日本語としていまいちピンと来ないというのも大きかったかもしれない。よく使われる慣用句的なものでもないので、このワードが出てくる度に毎回、空虚な言葉の羅列とか中身のないやつね、と脳内で再認識する必要があった。このあたりも翻訳者が苦労してそうだった。

 

 ウンコ議論や屁理屈は、知りもしないことについて発言せざるを得ぬ状況に置かれたときには避けがたいものである。したがってそれらの生産は、何かの話題について語る義務や機会が、その話題に関連した事実についての知識を上回る時に喚起されるのである。

単行本 p51

 

 とはいえ、日本にもこのいわゆる「ウンコな議論」というものは日常的によく見られるものだ。これは主に議論の体裁を保つための時間稼ぎとして行われている、という著者の解説は腑に落ちた。すでに多数決で結論は決まっているのだが、数の論理で押し切ったと批判されないよう、議論をしたという実績を作るためだけに空虚な答弁を繰り返したり、討論なんかしたくないのに、しなきゃいけないので予定時間を消費するためだけにあまり関係のない話を長々としたり。好意的に捉えれば座持ちが上手いという事だが、普通に考えれば単なる時間の無駄でしかない。本題とは全く関係のない、例えば過去の東京オリンピックの思い出のような昔話を延々と話されたりしたら、うんざりするのも当然だ。

 

 

 そして、そんなウンコな議論をする人たちは、自分の話す中身が真実かどうかに全く関心がないという説明にはゾッとした。自分は嘘をついていると認識している人であれば、真実を知っており、その上で相手を騙そうとしているわけで、少なくとも相手に何らかの影響を与えようと考えている。だがウンコな議論をする人は、時間稼ぎだけが目的なので、話の中身の真偽や相手を説得することに全く興味がない。つまり相手とコミュニケーションを図る気はなく、下手すれば存在すら気にかけていないという事で、よく考えるととてつもない怖さを感じる。最近、そんな人が増えているような気がするが、この本では分析にとどまり、解決策などは語られていないので、どうすればいいのだろうかと色々と考えてしまった。

 

 考えているうちにふと思ったのだが、「ウンコな議論」をもっとしっくりくる日本語に言い換えるとすると、今だと「ごはん論法」がそれに一番相応しいかもしれない。

 

著者

ハリー・G.フランクファート 

 

翻訳 山形浩生

 

ウンコな議論 - Wikipedia

 

 

登場する作品

The Prevalence of Humbug and Other Essays(世にはばかるおためごかし)」

ピサ詩篇

Dirty Story: A Further Account of the Life and Adventures of Arthur Abdel Simpson(ダーティー・ストーリー)」

「Lying(嘘をつくこと)」 聖アウグスチヌス

 

 

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